2024年4月 2日 (火)

カラヤンの1970年代 35

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルで
1970年代のベートーヴェンの交響曲全集を聞いている。
交響曲 第5番 ハ短調 作品67
1977年1月にベルリンのフィルハーモニーで収録、
交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
1976年10月にベルリンのフィルハーモニーで収録、
「フィデリオ」序曲 作品72b
1965年9月にベルリンのイエス・キリスト教会で収録。
カラヤンの力強い表現で最も気迫が感じられるのが、
ベートーヴェンの交響曲 第5番である。やはりいい。
カラヤンらしさがここまで直接的に伝わることもなくて、
理想をすべて追求し、あらゆることを実現していくのが、
ここでの1970年代の演奏の特長であると思われる。
激しく、急き立てる中で、この緊迫感を持続し、豪快で
同時に流線形ではあるのだが、音色には粘りがあり、
極めてカラヤン的な方向性というものが示されている。
独特である。重厚さで熱気があふれかえっているが、
輝かしく、音楽の流れはあくまでも滑らかで、限界に
挑戦する中で、絶妙な感覚を保つのが、カラヤン流。
しなやかさより戦車がアウトバーンを爆走するような、
こんな表現はカラヤン以外には考えられないのである。
特に交響曲 第8番などは、晩年の演奏の方がここに
優美さも加わって、余裕も出るはずだと思うのだけど、
この時代の演奏は、その強引なまでの思い切りよさに
ファンは痺れてしまう。実際のところで、比較としては、
余白に収められた1965年の「フィデリオ」序曲などは、
ガラッと空気も変わり、ひたすら雄大な仕上がりである。
1960年代から1970年代への時代の移り変わりで、
カラヤンのレコードにおける表現も大きく変化している。

DG 477 8005

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2024年2月 8日 (木)

カラヤンの1970年代 34

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルで
1970年代のベートーヴェンの交響曲全集を聞いている。
交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」
1976年10月にベルリンのフィルハーモニーで収録、
序曲「コリオラン」 作品62
1965年9月にベルリンのイエス・キリスト教会で収録、
「プロメテウスの創造物」序曲 作品43
「アテネの廃墟」序曲 作品113
1969年1月にベルリンのイエス・キリスト教会で収録。
カラヤンの「田園」は、独特の流線形が特長である。
非常によい流れで音楽は停滞なく進み、スッキリと
少しの澱みも濁りも存在せず、明るく健康な音色だが、
低音はよく鳴り、かなり増強されている。快調であり、
それが過ぎると少々情緒に欠けるといわれそうだが、
交響曲なのであり、風景画の色彩的な描写ではなく、
これがいい。しかし第2楽章はますます美しくなるし、
小川の清らかな流れは印象的であり、第3楽章の
長閑な情景、そして第4楽章の激しい嵐の描写へと
絵はそこに存在している。そして第5楽章における、
感謝の想いなのであり、人々の心が音楽に表れて、
そこは偉大な作品であり、カラヤンはやはり上手い。
後半の序曲は1960年代の録音だが、雄大であり、
録音の性質もあるけれど、1976年の交響曲の方が
演奏も洗練されて、音質もまたシャープなのである。

DG 477 8005

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2024年1月11日 (木)

カラヤンの1970年代 33

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルで
1970年代のベートーヴェンの交響曲全集を聞きたい。
交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱」
1976年9月にベルリンのフィルハーモニーで収録。
カラヤンが最も充実していた1970年代の時期であり、
次々に交響曲全集を完成させ、歌劇の録音を行い、
圧倒的存在感を示していた頃である。気迫が漲り、
音楽の安定感はこの上なく、すべてが思い通りに
カラヤンの表現とそこから生まれる豊かな音色は
完璧なのである。LP時代のアナログ後期であり、
技術も完成されて、ここに参加している奏者たちの
音は鳴りきり、密度の高さと集中力にも感動する。
この時代のカラヤンは力強く、豪快な響きに加え、
造形を鋭く、明解に描き出すところに優れており、
音楽は押し出すように立体的に迫ってくるのだが、
その音は柔らかく、丸みを帯びたところもあって、
心地よさというものも同時に感じられるのである。
やはり結果的には、1970年代半ばのカラヤンが、
最も条件が揃って、優れているように思えてくる。

DG 477 8005

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2023年6月21日 (水)

カラヤンの1970年代 32

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルによる
ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」~第3幕
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団で
1971年12月-1972年1月に
ベルリンのイエス・キリスト教会で収録されている。
第3幕は前奏曲から圧倒的に素晴らしい響きである。
重傷を負ったトリスタンの苦しみだが、悲痛な音色で
カラヤンは重厚で凄まじい表現を引き出していると
そんな記憶があったのだが、今回聞くと違っている。
非常に繊細な表情を聞かせて、隅々まで細やかだ。
第1場では、トリスタンが夢と現実の挟間を彷徨い、
悪夢にうなされては、実感の失われた儚い響きから
淡い幻想に胸を膨らませ、希望と情熱を取り戻す、
輝きの音色まで、その変化をカラヤンは自在に操り、
微妙な温度感や光と影の移ろいを丁寧に再現する。
動けないトリスタンを中央にそれに寄り添うように
音楽は浮遊するがごとく、柔らかい一つの筋を連ね、
滑らかな質感は、まさにこれなのであり、感激する。
その精妙な表現は、奇跡的な仕上がりにも感じられ、
それは素晴らしいのである。この絶妙なバランスは、
カラヤンでしか表せない調和でただただ圧倒された。
第2場でイゾルデが到着し、そこは一瞬の輝きで、
喜びが爆発するが、その劇的な表現は夢中にさせ、
しかしあっという間にトリスタンは息絶え、絶望へと
再び突き落とされる。悲劇的展開だが、あまりにも
そこは素晴らしいのであり、第3場でマルケ王が
駆けつけ、すべてを悟り、ここでは許されるのだが、
その盛り上がりから後半のイゾルデの愛の死まで
それは感動的で、隙なく、一気に聞かされてしまう。
やはりこの第3幕は究極なのであり、実に最高だ。
本当に偉大な作品であり、カラヤンが聞かせる。
この少し前の1960年代後半には「指環」があるが、
「トリスタンとイゾルデ」はカラヤンの最高傑作だと
そういってもいいのではないかと思えてくるぐらいに
すべてが充実している。1970年代の絶頂期である。

Warner 825646959471

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2023年6月20日 (火)

カラヤンの1970年代 31

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルによる
ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」~第2幕
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団で
1971年12月-1972年1月に
ベルリンのイエス・キリスト教会で収録されている。
カラヤンの豪快な表現で、力強い響きが鳴り出すが、
官能的な第2幕であり、そこはすぐにテンポを落とし、
思い切って、甘く優しさにあふれた音色を聞かせて、
この大胆な伸縮、絶妙な聞かせ方はカラヤンである。
あえて大きな揺らぎを取り入れ、粘りを効かせている。
その世界に夢中にさせて、聞く人を一気に引き込み、
この陶酔の感覚は本当にすごい。カラヤンの魔法、
それを越えて、魔術的な危険な彩りに支配されて、
こんな音色は、他では聞いたことがないのである。
改めて聞いて思うのだが、このときのカラヤンは、
絶好調なのではないかと、そしてまた、この作品が
カラヤンが望む音作りにぴったりと適しているか、
ただただ感動的である。カラヤンはわかっており、
この音で聞かせられたら、もう決して逆らえない。
第2場の愛の場面は、まさに夢の情景なのであり、
クリスタ・ルートヴィヒのブランゲーネは引き戻そうと
彼方から警告の歌を響かせるが、それは届かない。
第3場になり、マルケ王の一団が密会に乱入して、
一気に現実に突き落とされる。その沈み込む感じが
第2幕の深い味わいだが、もっと悲劇的な色合いに
変化を付けてもいいのだけれど、カラヤンはここでも
それほど、あまりメリハリを付けないので、何もかも
すべては幻想のようであり、滑らかさは維持される。
マルケ王のモノローグで、この場面は好きである。
カール・リッダーブッシュは明るい声質で懐が深い。

Warner 825646959471

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2023年6月19日 (月)

カラヤンの1970年代 30

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルによる
ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」~第1幕
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団で
1971年12月-1972年1月に
ベルリンのイエス・キリスト教会で収録されている。
カラヤンの指揮による楽劇「トリスタンとイゾルデ」を
新しいリマスター盤によって、改めて聞いてみたい。
どのくらい改善されているものか、比較はしないが、
昔のCDの硬い音質に比べると新しい再発売盤は、
角が取れて、滑らかな印象になり、結果的に豊かで
少なからず耳の馴染みはよくて、大いに期待できる。
カラヤンの表現は雄大であり、音のうねりに包まれ、
キビキビとメリハリをつける演奏ではないのであり、
大きなひとつの流れに身を委ね、それは続いていく。
目の前に広がる巨大な存在だが、滑らかに進めて、
その細部は、細やかに優しい表情を我々に見せる。
カラヤンの独特な世界があり、魔法の音色である。
「トリスタンとイゾルデ」は滑らかに聞かせていくと
先へ先へと音は連なり、テンポは速くなるのだが、
カラヤンは道を急がず、そこには奥行きが現れる。
物語の情景にも厚みが与えられて、これが感動だ。
カラヤンの音は骨太だが、第1幕も最後のところで
愛の妙薬によりトリスタンとイゾルデの心は目覚め、
そこでの柔らかい音で色合いが変化するところは、
カラヤンならではの魅力がある。そのまま壮大に
この歓喜は、第2幕へ引き継がれていくのである。

Warner 825646959471

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2023年6月 7日 (水)

カラヤンの1970年代 29

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮によるワーグナーで
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第3幕
ドレスデン国立歌劇場とライプツィヒ放送合唱団で
1970年11月24-30日、12月1-4日に
ドレスデンのルカ教会で収録されている。
舞台上での細やかな展開を支える緻密な音楽であり、
第2幕からの流れでカラヤンの音作りは精妙である。
しかし朝を迎え、情景は光に満ちて、爽やかであり、
ここでの音楽もまた少しだけ足取りは軽くなっている。
音色はますます滑らかに豊かな色合いを聞かせて
ザックスやヴァルター、エヴァの心理描写と密接に
カラヤンはこういう場面では実に丁寧に描いている。
主導動機を精密に分析していく手法ではないのだが、
さすがにカラヤンは舞台上での物語に深く共鳴して、
それを音楽で表現していく。面白いのが第3場で、
ベックメッサーの盗作事件だが、雲行きは変わり、
カラヤンの一貫した美意識が壊れることはないが、
切れ味よい響きで独特の滑稽を際立たせていく。
非常にスマートに整った表現なのだが、その中で
音楽はいきいきと躍動して、とにかく素晴らしい。
それにより、ますます美しい輝きの第4場となり、
感動も極まったところで、少しだけ気分を切り替え、
第5場の歌合戦の場へと出掛けていくのだが、
ここでまた面白いのが、あえてゆったりと聞かせ、
テンポも落とし、合唱の残響の具合も独特であり、
それまでのザックスの工房とは空気が違っている。
空間の広がりを感じ、心も開放され、歌合戦となる。
ルカ教会の音響空間を最大限に利用しているが、
マイクの設置なども変更しているのではないか。
こういうところでの発想は、カラヤンは天才的で
舞台に引き込まれる臨場感は、最高なのである。
第5場の歌合戦では、鑑賞として聞いているよりも
合戦に立ち会う観客の中にいる気分で堪能できる。
ベックメッサーが気味の悪い歌を聞かせるのであり、
それを正すべく、ヴァルターが輪に招き入れられて、
その美しい歌がすべての聴衆を魅了し、そこからは
ますます透明度が増して、ザックスの演説によって、
崇高な境地へと上りつめていく。偉大な作品である。
これこそ真の傑作だ。ワーグナーを聞きはじめると
永遠に聞き続けたくなるけれど、また機会を作ろう。

EMI 5 67148 2

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2023年6月 6日 (火)

カラヤンの1970年代 28

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮によるワーグナーで
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第2幕
ドレスデン国立歌劇場とライプツィヒ放送合唱団で
1970年11月24-30日、12月1-4日に
ドレスデンのルカ教会で収録されている。
どうも合唱団の歌い方が強く、しなやかさがなくて、
気になってしまうのだが、その一方で第2幕であり、
カラヤンの引き出す音色には、柔らかさも生まれて、
魔法にかけられていくのは最高の喜びなのである。
すっかり角が取れて、第2幕のこの印象のために
第1幕では、あえて力強い音を追及していたのかと
そう思えてくるくらいである。そうした巧みな効果で、
カラヤンならば、すべてわかっているし、実践して、
聞く人の心をコントロールするのはお手のものだ。
それこそが音楽に酔いしれるということなのであり、
すべてを委ね、操られているほど幸せなことはない。
カラヤンの表現は不思議なぐらいに精妙になって、
その細部まで、細やかに描き込まれているのには、
ただただ感動しかない。第2幕はこうあってほしい。
前半からテオ・アダムのザックスに惹かれてしまい、
後半はベックメッサーも加わり、もう最高に楽しい。
最後は乱闘騒ぎになり、周囲の住民を巻き込んで、
大いに盛り上がり、鮮やかに決まって幕が閉じる。

EMI 5 67148 2

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2023年6月 5日 (月)

カラヤンの1970年代 27

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮によるワーグナーで
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第1幕
ドレスデン国立歌劇場とライプツィヒ放送合唱団で
1970年11月24-30日、12月1-4日に
ドレスデンのルカ教会で収録されている。
カラヤンによる「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を
聞き直したいと思っていた。夏至には少し早いのだが、
6月になって、季節はいまである。久しぶりに聞いてみて、
カラヤンの引き出す音は力強く、豪壮ながら引き締まり、
合唱の歌声が硬質で厳格なところに時代を感じたが、
今日の感覚では、もっと明るく、柔軟な印象であろう。
全体に圧倒される巨大な迫力に満ちているのだが、
ときに優しい音色が聞こえてきて、ハッとさせられて、
そういうところがカラヤンらしく、匙加減は絶妙である。
しかしそれにしてもこの時代のカラヤンは充実して、
音楽がはじまったら真っすぐに進んで、緩みはなく、
この緊張感の持続というのは本当にすごいのである。
ハンス・ザックスはテオ・アダム、ファイト・ポーグナーは
カール・リッダーブッシュ、ヴァルターはルネ・コロであり、
ダヴィッドでペーター・シュライアーが歌っているという、
1970年代の理想の顔ぶれに思え、実に引き込まれる。
そしてベックメッサーはゲライント・エヴァンスである。
第2幕以降、ますます期待である。最高に楽しい。

EMI 5 67148 2

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2022年6月23日 (木)

カラヤンの1970年代 26

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルで
メンデルスゾーンの交響曲全集を聞いてきた。
交響曲 第2番 変ロ長調 作品52「讃歌」
1972年9月にベルリンのイエス・キリスト教会で収録。
交響曲 第2番「讃歌」はかなり久しぶりに聞いているが、
このカラヤンの演奏は素晴らしく、すっかり引き込まれた。
ベルリン・フィルとしては響きが明るく、実に艶やかである。
華麗な輝きもだが、音楽が非常にしなやかに展開されて、
この時代のカラヤンの重厚さや骨格を際立たせる感じより
穏やかな感情による安らぎや大らかさが魅力となっている。
第2部の声楽、合唱付きの印象も大きいのかもしれない。
カラヤンが演奏に強烈な個性を反映させるのではなく、
音楽も演奏もすべてを包み込んでいるような仕上がりが
独特なのであって、それが最大の特長ともいえるのだ。

DG 477 8005

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