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2005年10月20日 (木)

バイロイト音楽祭2004

バイロイト音楽祭2004のニーベルングの指環から
「神々の黄昏」の序幕と第1幕を聞いている。
序幕の部分には有名な音楽があふれていて、
夜明けの情景の後、ジークフリートとブリュンヒルデが登場し、
ジークフリートは指環を贈り、ブリュンヒルデは愛馬を差し出し、
それによって愛の証として契約が成立するが、
そのすぐ後(第1幕第2場)には、
今度はグートゥルーネとの結婚、そして
グンターとの義兄弟の誓い(偽りのもの)をかわし、
ブリュンヒルデとの愛は薬によってその記憶が失われるという、
なんとも悲劇的、というより皮肉な展開だが、
音楽は美しく、愛好家(ワグネリアン)にはたまらないのである。
音楽でいうと私はやはり「神々の黄昏」が最も好きなのだが、
うっとりの場面があふれて、充実の極みである。

序幕と第1幕をつなぐのがこれも有名な
「ジークフリートのラインの旅」と呼ばれる間奏曲で、
ここでの演奏がもう極楽的に美しい。
なんて書くと誤解を招きそうだが、ご存知の通り、
音楽は激しく盛り上がり、雄大な広がりのある
ワーグナー音楽のあらゆる要素が理想的に結晶化されているような
そんな音楽だが、アダム・フィッシャー指揮のバイロイト祝祭管弦楽団は、
研きぬかれた響きでいきいきと、そしてきびきびと自在に動き回り、
音楽の流れは、あくまでもつややかに感動的である。
バイロイト音楽祭のリングを指揮して、
「ラインの黄金」から「神々の黄昏」へここまで来ると
やはり特別な思い、気持ちの高揚があるのではないかと
勝手ながら推測してしまうのだが、いかがなものなのだろう?
計り知れないものがある。
もちろん何回もリングのサイクルをこなしているわけだけれど、
しかし毎回、それぞれに驚くべき高揚が存在して、
それは演奏者が生み出すもの、というよりも
ワーグナーの音楽にすべてが支配されているような
聴衆も含め、ワーグナーに操られているような、
そういうところがあるのではないかと、私は感じているのだが、
これは本当にすごい。ため息がもれる。

アダム・フィッシャーはウィーン国立歌劇場でもリングを指揮しているが、
ウィーンは世界の歌劇場の最高峰といっていいのではないかと思うけど、
それらに比べ、バイロイト音楽祭というのは、
演奏者にとっては、どういう思いが込められているのだろう。
ヴェルディにとってミラノ・スカラ座があるように、
ワーグナーの場合には、バイロイト祝祭劇場が存在するので、
必ずしも「ウィーンが最高」というのは当てはまらないような気もするのだが、
ここでの「神々の黄昏」を聞いていると、
そういうことをはっきりと実感できるような充実した空間に満たされる。

第1幕第3場で面白いと思うことがあるのだが、
ブリュンヒルデはジークフリートから贈られた指環に見とれて、
ワルトラウテ(ワルキューレのひとり)に
神々の黄昏が近い警告の内容を告げられても耳を貸さずに
ついには「神々の幸福よりも愛が大切だ」とまでいう。
ブリュンヒルデはワルキューレの中でも最も賢く、
自分を犠牲にしてもウォータンの真意を貫こうとした
神々の意向に最も忠実に行動するワルキューレ、
「ワルキューレ」において、そういう存在だったのだが、
「ジークフリート」の第3幕で目覚め、神としての位を失い、
ジークフリートとの愛によって、ここではひとりの人間の女性なのである。
愛の力によるものなのか、ここに描かれる神々と人間の対立構造は面白い。
神々という存在を創り出すことによって、
「人間はこういうものだ」というワーグナーの考え方が
より強調されて伝わってくるような気がして、興味深い。

しかしブリュンヒルデがここまで一途に
ジークフリートのことを愛している間に
第1幕第2場では、ジークフリートは、
ハーゲンによる陰謀により魔薬を飲まされたとはいえ、
今度はグートゥルーネにうっとりして、愛を語っているわけで、
全くジークフリートとは、「どこが真の英雄なんだよ!」って
突っ込みを入れたいとこだが、
ここにもワーグナーの「男なんてこんなものだよ」という
そういうメッセージも伝わってくる。
ワーグナーの人生観とはあまりいいたくないが、
人間観察の結果は示されているのだろうか。
皮肉な展開だが、これまで神々を中心とする物語だったのが、
「神々の黄昏」になって、人間の物語となっていることを
そこに示しているのである。

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