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2006年1月16日 (月)

ラトルのシューベルト

今年のウィーンフィル「ニューイヤーコンサート」は
すでに入荷しているようなのだが、
残念ながら、先日私が横浜で見たときには、
まだ入荷していなかった。
そのかわりサイモン・ラトルの新譜が2種類、
シューベルトの交響曲 第9番 ハ長調 D.944
R.シュトラウスの「英雄の生涯」「町人貴族」が入荷していて、
早速そちらを購入してきた。

まず今日はシューベルトを聞いてみた。
ラトルは本当に面白くて、やはりこれは簡単には語りつくせない。
ラトルが指揮しているシューベルトの「グレイト」だが、
ここ数年の演奏で、私が持っている録音だけでも、
今回ので3種類目である。この曲を頻繁に取り上げている。
最初のが「ザルツブルク・モーツァルト週間2002」における
ウィーンフィルとの演奏(2002年1月29日)である。
そしてラトルは、その秋のシーズンから
ベルリンフィルの音楽監督に就任して、
さらに翌シーズン(2003/2004)に
今度はベルリンフィルでこの作品を取り上げ、
その録音は、2003年11月5日の演奏だが、
再び一年半ほどの時間をおいて、これが今回のCDだが
2005年6月8-11日にライブ・レコーディングを行った。
この3種類の演奏だが、驚くほど違うのである。
詳しく比較したわけではないのだが、印象はかなり違う。
2002年のウィーンフィルとの演奏では、当時は
ベートーヴェンの交響曲全集でも聞けるように
その延長線上にあって、古楽的というか、
かなり原典の響きを意識しているというか、
攻撃的で挑戦にあふれる演奏であったと思う。
それが2003年の演奏になると、
ベルリンフィルの音を得たというのもあるのかもしれないが、
さらにスケールが大きくなって、重厚になって、
音楽に広がり、深まりが出て、堂々とした演奏であった。
もちろん刺激的な解釈は健在でもあったのだが。
そして今回の演奏となると、ちょっと驚いたのだが、
もうこれは自由奔放というか、ラトルの思うがまま、
自在にコントロールして、音楽の振幅は恐ろしく大きく、
ラトルの創造力には本当に発見だらけである。
わずか3年あまりの間に、これだけの新しい展開を見せてくれるラトル、
きっと作品に向かうたびに新しいアイデアが浮かんできて、
常に発見に満ちて、一期一会というか、
ラトルほど「天才」がぴったりの指揮者はいない。

ここでひとつ注目すべき点がある。
CDの表記だが、「交響曲 第9番」となっている。
1990年代以降「第8番」というのが主流になってきているのだが、
ラトルはあえて昔のように「第9番」としている。
(ラトルの意向でなくEMIの理由だったらごめんなさい)
2004年がフルトヴェングラーの没後50年で
そのときラトルはベートーヴェンの「第9」を指揮して、
フルトヴェングラーの演奏を研究して、
かつての巨匠を意識しながら演奏したと解説されていたが、
その前後からか、一時のように快速でただ攻めるだけではない、
より雄大に心のこもった表情で、音楽がその内から語りだしてくるような
豊かさの感じられる演奏になってきている気がするのである。
ここでの演奏でも、以前のような「概してテンポが速い指揮者」という
イメージは姿を潜め、どちらかというとかつての巨匠風というか、
必要以上にテンポを落として、ゆったりと歌ったり、
強弱の変化も大きいし、リズムの扱いも独自なものを生み出して、
これらを「ロマンティック」というならば、
フルトヴェングラーやその時代の趣ある音楽であると思う。
今日的な均質感やバランス感覚を重んじる演奏とは違って、
これを現代的ではないといって、しかしそれが、
50年前の昔へのただの回帰なのか、いやそれとも
ひとつの時代を先に脱したラトルの未知との遭遇なのか、
それはいわずと知れた後者である。

もうひとつだけ指摘しておきたいのが、
このディテールへのこだわりである。
そこから生まれてくる斬新な感覚、
恐ろしく細やかな表情を生み出して、
この新鮮な発想、まさにこれこそが、
先ほどから書いている「ラトルの天才的創造力」である。
ラトルはこれからどこへ向かうのか?
この自由な才能、本当に最後まで
我々はついていくことができるのだろうか?
いまはそれを楽しんで、夢中になって喜んでいる。
固定観念という常識から外れてしまった天才ぶりを発揮して、
そのときそれを受け入れられるだけの柔らかい発想を
我々ももち続けなくてはならない。

EMI 3 39382 2

「サイモン・ラトル」に関する記述はホームページにもございます
http://homepage3.nifty.com/tsukimura/

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