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2012年1月 7日 (土)

小噺 「年越し風景」

甚兵衛さん:おぉ…寒い。戻ったよ。
おかみさん:お前さん、少しは貰えたのかい?
甚兵衛さん:それがさぁ…ちっとも駄目だ。
おかみさん:どうするんだい!年が明けちまうよ。
甚兵衛さん:普段は、甚兵衛さんは親切だね…
いい人だね…っていってくれるのに、大晦日に掛取りに行くと
払う銭はないよ!って、恐い顔で睨まれちまってさ。
そうすると俺はどうしようもできなくて…
来年もよろしくお願いしますって、挨拶して帰ってきた。
おかみさん:嫌だね。お前さんがそんなだから、うちは貧乏で貧乏で。
人がいいから…バカにされてるんだよ。ああ、情けない。
甚兵衛さん:今日は大晦日だから、明日は元日だよ。
おかみさん:そんなの当たり前じゃないか。
甚兵衛さん:どこの家も正月の仕度があるから払う御足はないんだよ。
おかみさん:どうするんだい。うちにだって正月は来るんだよ。
甚兵衛さん:だから…ねえもんは仕方ねえじゃねえか。
おかみさん:ああ…もう愛想が尽きたよ。離縁しておくれ。
甚兵衛さん:おお…聞いてみねえ。除夜の鐘が聞こえるよ。
おかみさん:もうどうするんだい。貧乏暮らしはまっぴらだ。泣。
甚兵衛さん:おお、びっくりした。あんた、誰だ。
爺さん:ようやく見えたのかい?
わしはこの家に住みついとる貧乏神じゃよ。
甚兵衛さん:へえ?なんですね?貧乏神?
爺さん:夫婦喧嘩も…まあ…その辺にしておきな。
甚兵衛さん:嫌だな。あんた、貧乏神がいるから
掛取りに行ってもちっとも払ってもらえないわけだ。
爺さん:それは違う。お前さんの性格じゃよ。
金が入ってこないのと貯まらないのとは別じゃ。
まあ…そんなことはいい。わしも年をとってな…
今年をもって、この家を出ていくことになった。
代わりに福の神が来るから。そろそろ来る頃じゃ。
来年からはお前のところもよくなるぞ。
甚兵衛さん:あなたずっとこの家にいたんですか?
ちっとも知らなかったなあ。
爺さん:お前さんの生まれるずっと昔からじゃよ。
わしもな…若い頃は福の神だったんじゃ。
今度、江戸という町ができるから
福をたくさん持って行って来いと…ここに来たんじゃ。
でもそれから二百年以上がたって、
今度、新しい神がやってくる。わしも仕事納めじゃ。
甚兵衛さん:わあ!子供が来た!何だお前。
子供:新しくこの家に参りました福の神と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
(ドンドンドン)
お得意先:ああ、甚兵衛さん、悪かったね。
遅くなっちゃったけど、お金持ってきたから。
許しておくれ。また来年もよろしく。
次々に借金の返済の方々が訪れまして…
おかみさん:ああ…驚いたね。残らずみんな払ってくれたよ。
多く払っていった人までいるよ。これで正月が迎えられるね。
甚兵衛さん:まだ間に合うな。大家さんのとこに行ってくる。
おかみさん:何だい?
甚兵衛さん:溜まってた家賃を払ってくるよ。
おかみさん:それがいいよ。行っておいで。
きちんと挨拶してくるんだよ。
(ドンドンドン)
甚兵衛さん:大家さん、大家さん。
大家さん:何だい、こんな時分に…甚兵衛さんじゃないか。
何かあったのかい?
甚兵衛さん:店賃払おうと思って、遅くなってすみません。
大家さん:お前のところも…昼間行ったんだけどさ。
爺さんにないって言われたから。いいよ。無理しなくて。
甚兵衛さん:へっ?大家さんも見えるんですか?
大家さん:何がだよ。
甚兵衛さん:貧乏神。
大家さん:はあ?貧乏神?
甚兵衛さん:いやいや…いいんです。
大家さん:お前のところは、行くといつも爺さんが
ないないって、にっこり笑ってさ…
まあ、あの笑顔を見てると…ここ一軒ぐらい
大したことないか…って、思っちまってさ。
甚兵衛さん:知らねえとこで借金の言い訳してくれてたんだね。
そういや…おれんとこは、掛取りに行って苦労はしてたけど、
掛取りに来られて苦労したことはねえな…
不思議だなとは思ってたんだけどさ。
大家さん:お前、何ぶつぶつ言ってんだ?
年寄りは大切にしなよ。
甚兵衛さん:いや、大家さん、もういいんです。
大家さん:何がもういいんだ?
甚兵衛さん:新年からは福の神の子供が参りました。

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