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2012年4月28日 (土)

小噺「易者の占い」

夜になりますと辻には易者というものが出ておりまして、
占いでございます。「易者身の上知らず」などと申しまして、
易者という方は、他人の身の上は占っても…
自分のこととなるとわかっていないなどと申しますが、
当たると評判になりますと相談の方が列を作りますようで…

客の男:あの…どうぞ占っていただきたいのでございますが…
易者:どうぞ、そこにお掛けなさい。
客の男:商売のことでございまして、長年のお馴染み様から
新しいお取引先を紹介していただきまして、
そちら様と今後、商売をさせていただくか…ということを
占っていただきたいのでございますが、いかがなものでございましょうか?

易者:ほおほお。そちらの方とはすでにお会いになっておられるので…
客の男:はい。二度ばかりお会いさせていただいておりますが、
どうも気が合わないと申しますか…私はこのように大らかな性格でございまして、
そちらの方は気を急いていると申しますか…少々短気なお方でして…

易者:そのように易にも表れておりますな…あなたは慎重にお考えのようで…
客の男:はい。その通りでございます。相手様のお人柄を何よりも大切にして、
これまで商売をしてきたのでございます。

易者:そのように易にも表れておりますな…目先の利益にとらわれず、
慎重に歩めば、この先、また新しい力となる者現れると出ております。
客の男:どうもありがとうございます。真におっしゃる通りでございます。
易者:はい、次のお方、お掛けなさい。
客の女:私、ある人から夫婦になってくれって、いわれてるんですけど
どうしようか…って、占っていただきたいんですけどね…

易者:ほおほお。その方とは長いお知り合いで…?
客の女:そうなんですよ。同じ町内で子供の時分から知ってるんですけど
ふふふ。それがずっと私にだけ優しくて…この前なんか、神社のお祭りに行って、
お前、この腰巻を買ってやろうか!なんて、突然言い出すもんだから、恥ずかしくて…

易者:はいはい。あなたはそのお方を昔から知っておられるし、悪くは思っておられない。
客の女:そうなんですよ。いやだ、先生ったら、何もかもお見通しなんだから…
易者:はいはい。そのように易にも表れておりますな…
客の女:外見はそれほどってこともないんですけど…いい人なんですよ!
易者:はいはい。そのように易にも表れておりますな…よろしいのではないのですかな?
易にもそのように表れておりますしな…そのお方を大切になさい。
客の女:先生。ありがとうございます。お陰様で決心がつきました。
易者:はいはい。また何かありましたら、相談にお見えなさい。

隣の易者:いや…あなたの易は本当にお見事ですな。なんでも当てなさる。
易者:いえいえ。それほどのこともないのでございますよ。
隣の易者:私は駄目です。一所懸命に占っているのですが、何も見えてきません。
易者:いや、あなた。占いというものは、相談に来られた方の心に正直に
心の中にある言葉を引き出せばよろしいのですよ。言葉を導けばよろしいのですよ。
隣の易者:はあ、そういうものですかな。でも私、口下手ですからな…
易者:相談に来られる方は、大体は気持ちの整理はついているものなのでございます。
あとは誰かに背中を押してほしいだけ…そうすれば、自然に道は開けますので。
隣の易者:ほお。となりますと…あなたは易を立てているようで…本当は立てていない?
易者:ははは。まあ、そういうことになりますかな…

八五郎:おい!ちょっと座らせてもらうよ。
易者:相談のお方かな?どうぞお掛けなさい。
八五郎:はあ?遭難のお方?俺は八五郎ってんだ。
易者:八五郎さん、あなた、大そう酔っていらっしゃる。
八五郎:そう!ご機嫌だよ。今日は建前でよ。俺はでえく。大工。職人だよ。
明日からも頼むよって、酒から旨いもんから…たらふく御馳になってよ。

易者:なるほどなるほど。それでは明日からのお仕事の成り行きを占ってほしいと…
八五郎:はあ?あんた、そういう難しいことよくわかんねえけどよ、
うちの棟梁がよ…八!しばらく遊ばしちまったけど、今度はお屋敷の仕事だから
長くなるぜ!ってよ。あんた知ってるか?神田竪大工町の政五郎っていや、
知らねえやつはいねえや。面倒見がいいのよ。俺は棟梁のためならよ…

易者:はいはい。仕事のお仲間には大そう恵まれているようですな。
八五郎:なに?仲間?それがよ。左官の金太郎ってやつがいてよ。
そいつが俺は気に入らねえのよ。この前もよ。俺が三両と書付と印形の入った
紙入れを落としちまってよ…そうしたらあいつ拾って、わざわざ届けてくんのよ…
もってきてやったよって、嫌味なこといいやがって、金はくれてやるって、
そうしたら受け取らねえとかぬかしやがって、それから大家も出てきて、大喧嘩よ。

易者:ほお。あなた、その争いごとの成り行きを占ってほしいと…
八五郎:はあ?なに?おめえ、成り行き成り行きって、いってえ、なんだよ。
易者:あなたがこの先、よい方へ向かうか?悪い方へ向かうか?
それを占ってしんぜるのが易者の務めでな…
八五郎:向かう…おお、そうだそうだ。こんなとこで油売ってる場合じゃねえ。
早えとこ帰って、寝ねえといけねえや。職人の朝は早いのよ。
あんたもよ。もう夜は更けてんだから、とっとと帰って、寝た方がいいぜ。

易者:あなたは何の相談でここへ来られた?
八五郎:ここへ?はあ?帰り道にちょっと疲れたから、休ませてもらっただけよ。
易者:あなた、ちょっとあなた、見料、見料!
八五郎:あんたもよ、こんな夜に出歩かないで…
お天道様の下を歩いてたら、きっといいことあるぜ。あばよ。

易者:私としたことが…何という愚かなことを…
隣の易者:いや、見ていましたよ。たいへんでしたね。酔っぱらいの相手は。
易者:私、今日を限りに易者を辞めることにいたします。
隣の易者:何でですか?酔っぱらいに絡まれたぐらいで…そんな。
あなたたいへん繁盛しているのだし、辞めちゃ、もったいないじゃございませんか。

易者:いえ、もうこれ以上続けることはできません。
隣の易者:どうしてですか?
易者:私、毎日、仕事に出る前に身を清め、今日の運勢を占っているのですが、
この大難、易には現れなかったのでございます。

ありがとうございました。

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