日和下駄の風景 3~日和下駄
永井荷風「日和下駄」 第一 日和下駄より
…昔から江戸名所に関する案内記狂歌集絵本の
類(たぐい)の夥(おびただ)しく出板されたのを見ても
容易に推量する事が出来る。太平の世の武士町人は
物見遊山を好んだ。花を愛し、風景を眺め、古蹟を
訪(と)う事は即ち風流な最も上品な嗜みとして尊ばれて
いたので、実際にはそれほどの興味を持たないものも、
時にはこれを衒(てら)ったに相違ない。江戸の人が
最も盛に江戸名所を尋ね歩いたのは私の見る処やはり
狂歌全盛の天明以後であったらしい。江戸名所に興味を
持つには是非とも江戸軽文学の素養がなくてはならぬ。
一歩を進むれば戯作者気質(かたぎ)でなければならぬ。
江戸の風流は、狂歌全盛の時代、天明期以降のことか。
天明の元号は、1781年から1789年で、その時期以降。
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