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2018年1月18日 (木)

圓朝速記~真景累ヶ淵(四三)

新吉と作蔵が戻ってくる場面。

新吉「…蚊帳を窃(そっ)と畳んで、離れた処(とけ)え
持って行って質に入れれば、二両や三両は貸すから、
病人に知れねえ様に持出そう」
作蔵「だから金と云うものは何処(どこ)から来るか
知れねえなア、取るべえ」

三蔵の置いていった蚊帳を取り上げようとして

新吉「金を置いて行った、そうか、どれ見せろ」
作蔵「だから金は何処(どこ)から出るか知んねえ、
富貴(ふうき)天にあり牡丹餅(ぼたもち)棚にありと
神道者(しんどうしゃ)が云う通りだ、おいサア行くべえ」

「牡丹餅は棚にあり」は落語によく出てくる。
もちろん「棚から牡丹餅」の棚の上。

累「…金をお持ち遊ばして其の上蚊帳までも持って行っては
私(わたくし)は構いませんが坊が憫然で」
新吉「何(なん)だ坊は己の餓鬼だ、何だ放さねえかよう、
此畜生(こんちきしょう)め」
と拳(こぶし)を固めて病人の頬をポカリポカリ撲(ぶ)つから、
是を見て居る作蔵も身の毛立(だ)つようで、

何かに憑りつかれたかのように新吉は残酷な振る舞いで。

新吉「なに、此畜生め、オイ頭の兀(はげ)てる所(とこ)を打(ぶ)つと、
手が粘って変な心持がするから、棒か何か無(ね)えか、…」

新吉はこれまでとまるで別人のようである。
一体、何がそうさせているのか。

累「アアお情ない、新吉さん此の蚊帳は私が死んでも放しません」
と縋(すが)りつくのを五つ六つ続け打(うち)にする。
泣転(なきころ)がる処を無理に取ろうとするから、
ピリピリと蚊帳が裂ける生爪が剥(は)がれる。
(中略)
作蔵「爪がよう」
新吉「どう、違(ちげ)えねえ縋り付きやアがるから生爪が剥がれた、
厭な色だな、血が付いて居らア、作蔵舐(な)めろ」

気持ち悪くて、ゾッとする表現。
幽霊が出るよりもよっぽど恐ろしい。

新吉「何をいやアがる」
とツカツカと立ち戻って来て、脇に掛って有った薬鑵(やかん)を取って
沸湯(にえゆ)を口から掛けると、現在我が子與之助の顔へ掛ったから、
子供「ヒー」
と二声(ふたこえ)三声(みこえ)泣入ったのが此の世のなごり。

一番恐ろしいのは、幽霊でもなく、この世の人間だと。

斯う憎くなると云うのは、仏説でいう悪因縁で、心から鬼は有りませんが、
憎い憎いと思って居る処から自然と斯様(かよう)な事になります。

と、圓朝は締めくくっている。

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