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2023年9月30日 (土)

エマニュエル・アックス 12

エマニュエル・アックスによるブラームスで
ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品83
ベルナルト・ハイティンク指揮ボストン交響楽団で
1997年4月19,21日にボストン・シンフォニー・ホール、
ヨーヨー・マとエマニュエル・アックスによる
チェロ・ソナタ ニ長調 作品78「雨の歌」
1998年4月27日にメスーアン・メモリアル・ホール。
渋い味わいのブラームスである。しかしそれは
録音の仕上がりでそちら側に引き寄せられて、
実際のところはもう少し明るい音色なのではと
思うところもあるのだが、いぶし銀の世界である。
エマニュエル・アックスは細やかな表情付けで
暖かみのある優しい色合いを出し、美しい輝き、
柔軟な音楽を聞かせている。独特のスタイルで
この辺の魅力に気付いてしまうと離れられない。
ハイティンクはこの時代にボストン交響楽団と
ブラームスの交響曲など、録音を残しているが、
この音の感じであったと思う。時間も経過して、
改めて聞き直してみたい気持ちもあるのだが、
記憶の中では、この印象であった気がしている。
後半のチェロ・ソナタで、ヨーヨー・マと演奏する、
エマニュエル・アックスはやはりいきいきとして、
こちらはいつもながらの魅力だと心穏やかだが、
ヴァイオリン・ソナタ 第1番をチェロで演奏して、
ト長調がニ長調に移調されているので、これが
どうも気持ち悪い。苦手というか、耐えがたく、
チェロで弾くためには仕方ないのであろうけど、
移調するとそれはもう、別の音楽なのである。
2曲のチェロ・ソナタだけでなく、編曲作品まで
録音を残してくれているということは、うれしく、
ヨーヨー・マの重要な記録ではあるのだけれど。

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2023年9月29日 (金)

タカーチ四重奏団 8

タカーチ四重奏団によるチェコの作品で
スメタナの弦楽四重奏曲 第1番 ホ短調「わが生涯から」
ヤナーチェクの弦楽四重奏曲 第1番「クロイツェル・ソナタ」
弦楽四重奏曲 第2番「内緒の手紙」
2014年8月16-20日にワイアストン・エステイトで収録。
スメタナの有名な弦楽四重奏曲だが、聞くのは久しぶりで
すると何ともいえず感動的なのであり、実にいいのである。
独特の明度を感じる演奏であり、音楽は常に明瞭である。
くっきりとして、丁寧に細やかなところまで描き込まれるが、
シャープな感覚を出しながらも同時に素朴な感触もあり、
チェコの風土的なものを
感じさせる。そうした民族性を
強調することはないのだが、ほどよいバランスと調和が
活きているのであり、中庸を行きながらもその味わいは、
豊かなものが感じられる。タカーチ四重奏団の結成は、
ブダペストのリスト音楽院の学生たちからはじまったと
するとこうした民族色豊かな作品は得意な気もするが、
この演奏時(2014)でも結成から40年近くが経過して、
メンバーも交代しているし、現在はアメリカを拠点にして、
活動しているそうなのである。初期の演奏は知らないし、
比較的新しい録音ばかり聞いていて、わからないが、
結成当初の精神が現在まで、引き継がれているのか、
その辺はどうなのであろう。しかしいまの演奏を聞くと
それは素晴らしく、眩しい輝きで惹かれるものがある。
ドヴォルザークの作品にも共通するチェコの薫りだが、
スメタナもヤナーチェクもその味わいに深く感動する。

hyperion CDA67997

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2023年9月28日 (木)

レナード・バーンスタイン 34

レナード・バーンスタイン指揮ロンドン交響楽団による
マーラーの交響曲 第8番 変ホ長調「千人の交響曲」
1966年4月18-20日にウォルサムストウ・アセンブリー・ホール。
バーンスタインのニューヨーク・フィルとの最初の全集だが、
この第8番だけが例外で、ロンドン交響楽団なのである。
そこには何かやむを得ない事情があったのであろうけど、
ニューヨーク・フィルで統一してほしかったと残念である。
ロンドン交響楽団は好きなので、バーンスタインには、
もっといろいろな録音を残してほしかったが、少ない。
大編成で知られる作品だが、それにしても大迫力で、
まさに宇宙にこだまする、というような残響が凄まじい。
バーンスタインが細部にまで生々しい音色を追及して、
マーラーの複雑で発想に満ちた管弦楽法が冴えわたる。
この時代のバーンスタインは勢いがあって、熱気に満ち、
前へ前へと進んでいく音楽に引きずり込まれ、感動する。
緻密に精妙な響きを追及する演奏もいいが、ここでは、
さすがにバーンスタインだと、熱量がすごいのである。
正直な感想として、なかなか難題な交響曲 第8番だが、
こういう演奏ならば、素直な気持ちで受け入れられるし、
いつの間にか、すっかり夢中で聞けているのである。
音楽も壮大で、そして何よりバーンスタインの演奏が、
魅力的であって、大きな気持ちでたっぷりと楽しめた。

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2023年9月27日 (水)

ベルナルト・ハイティンク 52

ベルナルト・ハイティンク指揮バイエルン放送交響楽団で
ブルックナーの交響曲 第6番 イ長調(ノヴァーク版)
2017年5月4,5日にミュンヘンのフィルハーモニー。
いよいよハイティンクの最晩年の録音になってくるが、
それが思っていたのと違って、ますます力強い響きで
音楽の動きは実に若々しい。ブルックナーの交響曲で
それを構成している様々な要素に隅々まで光を当て、
いきいきと語り聞かせ、輝きの表情を見せるのだが、
ここではそれが顕著にも感じられる。高齢になって、
肉体的な自由が奪われていくのは抗えないことだと
そんな状態がハイティンクにもあったであろうことは
想像がつくのだが、その音楽はますます自在であり、
形が崩れることもなく、テンポが遅くなることもなく、
音の結び付きはしっかりとこれは驚きの完成度だ。
何か強烈に個性的なところというのはどこにもなく、
ならば、ハイティンクはリハーサルで何をしている?
ということを思うのだけど、楽団の癖や長年の慣習、
小さなズレ、曖昧にしてきたこと、緩み、などなど、
それらを丁寧に正して、まっさらに音楽に向き合い、
演奏に臨んでいるのではないかと思うのである。
雑味ない味わいというのは、本当に偉大なもので
ここでの感動とはそういうものだ。次回はいよいよ
最後の年のアムステルダムでの第7番を聞きたい。

BR 900147

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2023年9月26日 (火)

ヘルベルト・ブロムシュテット 29

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮バンベルク交響楽団で
マーラーの交響曲 第9番 ニ長調
2018年6月にバンベルク・コンツェルトハレで収録。
ブロムシュテットがマーラーに熱心なのは知っているが、
録音は決して多くなく、第9番がこうして聞けるのは、
貴重なことである。という思いで聞きはじめるのだが、
マーラーの音楽が素晴らしくて、すっかりその世界に
引き込まれてしまう。これだけの感動があるのだから
演奏はもちろん優れているに違いない。でもやはり、
ブロムシュテットはあまり自身の存在を主張せずに
ただただ音楽にすべてを捧げて、誠実なのである。
個性がにじみ出て、音楽に深く感情移入するような、
そういう演奏ではない。どちらかといえば、自身も
オーケストラの存在も消し、現れるのは音楽のみ、
マーラーの音楽のみがそこに存在するのであって、
真っすぐに心に響き、ゆえに感動も深いのである。
端正に丁寧に音楽を扱って、真摯な姿勢はそこに
独特な透明感を生み出して、それは魅力的である。
やはりブロムシュテットはいいなって、実に名演だ。
バンベルクでもライプツィヒ・ゲヴァントハウスでも
ライヴ録音は放送局に数多く残されているはずで、
その中にマーラーの録音は他にないのであろうか。
ブロムシュテットのマーラーをぜひもっと聞きたい。

accentus music ACC30477

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2023年9月25日 (月)

マリス・ヤンソンス 24

マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団による
R.シュトラウスの4つの最後の歌、明日の朝 作品27-4
ディアナ・ダムラウのソプラノで
2019年1月21-25日にミュンヘンのヘルクレスザール、
ディアナ・ダムラウとヘルムート・ドイチュのピアノで
あおい(遺作)、乙女の花 作品22
サフラン 作品10-7、かわらないもの 作品69-3
3つのオフィーリアの歌 作品67、物いわぬ花 作品10-6
あなたは私の心の王冠 作品21-2、何もなく 作品10-2
ひそかな歌 作品39-1、私の眼 作品37-4
夜 作品10-3、憩え、わが心 作品27-1
苦悩の讃美 作品15-3、解き放たれて 作品39-4
2019年9月11-14日にホーエネムスで収録。
マリス・ヤンソンスのR.シュトラウスを聞いてきたが、
4つの最後の歌ですべてを聞き終えたことになる。
ヤンソンスにとって非常に重要な作品なのであり、
バイエルン放送交響楽団とアニヤ・ハルテロスで
2009年の録音も残されている。2019年11月の
カーネギー・ホールにおける最後の演奏会でも
この4つの最後の歌が取り上げられたそうである。
そういう話を聞くと特別な想いが込み上げてくる。
2019年1月の録音では、10か月後のその秋に
まさか亡くなってしまうなんて、少しも思わない、
豊かに鳴りきり、華やかな演奏は感動的である。
後半はヘルムート・ドイチュのピアノとの歌曲集で
なかなか渋い選曲に思えるが、ただただ美しい。

ERATO 0190295303464

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2023年9月24日 (日)

クリスティアン・ゲルハーヘル 9

クリスティアン・ゲルハーヘルによる
マーラーの交響曲「大地の歌」(ピアノ版)
テノールはピョートル・ベチャワ
ピアノはゲロルト・フーバーで
2020年7月20-22日、9月29日-10月1日に
ミュンヘンのバイエルン放送スタジオで収録。
1989年とあるが、サヴァリッシュのピアノによって、
初演されたピアノ版による「大地の歌」は、その頃、
たいへん話題になったのをいまもよく覚えているが、
ゲロルト・フーバーのピアノで全楽章を聞けるのは、
これは貴重なことである。マーラーの壮大な音楽は、
ピアノの88の鍵盤では、とても収まりきらないって、
思ってしまうところもあるが、一方の緻密で繊細に
室内楽的な表現などでは、この響きが心に染みる。
ピアノのこの単色の響きが、管弦楽のあの多彩で
豊かな音色に拡張されていくところをこの演奏で
実感できるわけだが、原点のピアノに戻すことで
マーラーの頭の中にあった音楽の本質を感じて、
作品の真実を知ることができるとこれは意義深い。
「告別」の楽章は特に素晴らしく、ここまでくると
すっかりピアノの世界に馴染んでいるわけだが、
クリスティアン・ゲルハーヘルの深く語り聞かせ、
ゲロルト・フーバーとのデュオは今回も安定して、
最高なのである。演奏形態とか、楽器の音など、
表面上の形を越え、大地の歌の音楽に感動する。

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2023年9月23日 (土)

フランソワ・フレデリック・ギィ 8

フランソワ・フレデリック・ギィによる
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集(第2巻)から
ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57「熱情」
ピアノ・ソナタ 第25番 ト長調 作品79
ピアノ・ソナタ 第24番 嬰ヘ長調 作品78「テレーゼ」
ピアノ・ソナタ 第28番 イ長調 作品101
ピアノ・ソナタ 第22番 ヘ長調 作品54
2010年12月7,8日、2011年4月19,20日に
メッツのアルセナル劇場で収録されている。
「熱情」からはじまるが、ここは注目の聞きどころで
フランソワ・フレデリック・ギィは期待通りに素晴らしい。
自然体な表現で細やかなところでの表情の美しさは
最大の魅力であり、音楽の流れがよく、力みはなく、
角も取れて、柔らかさもあり、迫力が足りないとか、
そういうことではなく、深みも奥行きも十分である。
音の連なりが何とも心地よく、絶妙であり、最高だ。
このピアニストにすっかり夢中になってしまったが、
フランソワ・フレデリック・ギィは聞けば聞くほどに
味わいがあって、詩情があり、偉大な存在である。
ベートーヴェンをこういう形で聞かせてくれるのは、
本当に貴重なピアニストで、大切にすべき人だ。
中期から後期へと向かう小規模な作品が続き、
流れよく、軽やかで、ライヴ録音の特長もある。

Zig-Zag Territoires ZZT304

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2023年9月22日 (金)

フランク・オッル 1

ムジカ・ヴィヴァ2021から
フランク・オッル指揮バイエルン放送交響楽団で
ウォルフガング・リームの狩猟と形式(2008改訂版)
2021年6月22-25日にミュンヘンのヘルクレスザール。
「狩猟と形式」は1995年から2001年に作曲され、
2007年から2008年の改訂版による演奏である。
ワーク・イン・プログレスの作品だが、その改訂で
最終形ということであるらしい。このところずっと
ヘルムート・ラッヘンマンの作品を聞いていたので、
同じドイツの作曲家ではあるが、リームの音楽は
やはりしなやかで、動きに満ちて、これは面白い。
2台のヴァイオリンによる細かな戯れにはじまり、
61分の連続した音楽の流れが巨大な発展をなし、
単純なものから壮大な広がりへと増幅されるのは、
ライヒのドラミングとかを思い浮かべてしまうけど、
こちらは全くの前衛であり、最先端の音響であり、
ライヒの清々しく晴れわたっていく光景とは違い、
リームの作風には複雑で混沌としている空間も
存在している。その邪悪な色合いと奇抜さは、
実に刺激的なのであり、すっかり取り込まれる。
ウォルフガング・リームの作品はやはり最高だ。
現代音楽のこの脳に突き刺さってくる感覚は、
最強の快楽なのであり、マーラーの交響曲の
上を行って、達成感があり、楽しいのである。

BR 900640

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2023年9月21日 (木)

セミヨン・ビシュコフ 15

セミヨン・ビシュコフ指揮チェコ・フィルと
キリル・ゲルシュタインによるチャイコフスキーで
ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
(1879年版 第2稿による演奏)
2017年6月7-9日にプラハのルドルフィヌム、
幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」 作品32
2017年6月12-14日にプラハのルドルフィヌム。
ピアノ協奏曲 第1番は1879年版での演奏で
1980年代後半にラザール・ベルマンの録音が
話題になって、それは原典版とされていたが、
第1稿というのは1874年版で、ならば通常は、
第3稿ということである。原典版もこの第2稿も
あまりよく知らなかったのだが、これは興味深い。
有名なのは冒頭の豪壮な和音がアルペジオで
第3楽章も中間に謎の世界に陥るところがあり、
それらは第2稿の特徴だ。独特の表現があるが、
それはキリル・ゲルシュタインの個性というより
現行の第3稿との違いということなのであろう。
いろいろと面白くて、違いは新鮮味でもあって、
釘付けになって聞いてしまうのだが、何よりも
やはりキリル・ゲルシュタインが素晴らしくて、
本当に魅力的だ。音も美しいし、高度な技術、
鮮やかに聞かせるが、派手な感じにはならず、
落ち着きと深みのある音色で、感動的である。
同じ時期の「フランチェスカ・ダ・リミニ」も聞いて、
セミヨン・ビシュコフとチェコ・フィルが聞かせる、
このチャイコフスキー・プロジェクトは最高だ。

DECCA 483 4942

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2023年9月20日 (水)

クラウス・テンシュテット 10

クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィルによる
ブラームスの交響曲 第1番 ハ短調 作品68
1983年9月21,22日にアビー・ロード・スタジオ。
テンシュテットは悠然としているが、力強い音楽で、
豪快な印象もあるけれど、思ったよりは濃厚でなく、
さらにじっくり歌い込みそうで、意外にそうでもない。
この演奏はどう捉えればいいのか、なかなか難しい。
よく知り過ぎているブラームスの交響曲なのであり、
それゆえかえって迷いが出てしまう。気になるのが、
録音があまりよくないのと、それに引きずられるが、
ロンドン・フィルの音色も表現もだが、美しくない。
魅力はあるはずで、しかしそれが伝わってこない。
残念というよりも歯がゆい感じの悔しさを覚える。
しかし終楽章になると空気が変わり、動きはじめ、
音楽にもメリハリが出てくるし、独特の熱い感じで
これがテンシュテットともいえるのか、最終的には、
やはり感動的なのである。終わってみればよくて、
最も壮大な演奏のひとつといえるであろう。それが
魅力であり、特長でもあり、そう聞けばいいのだ。
そこがわかって、繰り返し聞いていると頷けてくる。

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2023年9月19日 (火)

マリス・ヤンソンス 23

マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団による
R.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」
ダニール・トリフォノフのピアノでブルレスケ ニ短調
2017年10月10-13日にミュンヘンのヘルクレスザール。
「ツァラトゥストラはこう語った」のあの有名な冒頭から
あまりにも素晴らしく、キッパリとした響きで突き抜けて、
圧倒的な印象には驚かされる。ヤンソンスの初録音か、
この20年前になるかと思うのだが、ウィーン・フィルで、
「ツァラトゥストラはこう語った」のライヴ録音を聞いて、
ヤンソンスのイメージは鮮烈であったとよく覚えており、
やはりR.シュトラウスの演奏というのは格別である。
細やかなところまで描き尽くし、緻密な再現であって、
その上で、さらに大胆さや思い切りのよさは自在で
とにかく音楽が鳴りきっている。深みのある音色は、
あまりにも感動的であり、これまで聞いてきた中でも
間違いなく頂点に位置する名演である。後半には、
トリフォノフが登場のブルレスケが収録されており、
こちらがまた、雄大というか、実に雄弁な表現であり、
何ともいいのである。ヤンソンスのR.シュトラウスは
本当に素晴らしく、主要な作品は概ね残してくれたが、
聞けば聞くほどに亡くなってしまったことが惜しまれて、
さらに聞き続けていたかったと思ってしまうのである。
まもなく4年になるのだが、いまだにそういっている。

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2023年9月18日 (月)

コリン・デイヴィス 19

サー・コリン・デイヴィス指揮による
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団で
ドヴォルザークの交響曲 第9番 ホ短調 作品95
1977年11月にアムステルダム・コンセルトヘボウ、
ロンドン交響楽団の演奏で
交響的変奏曲 作品78
1968年2月にロンドンで収録。
この渋い音色に痺れてしまって、感動的である。
ドヴォルザークの有名な「新世界から」においても
サー・コリン・デイヴィスは、華麗に美しい響きを
引き出そうとはせず、音楽の真実のみを追及して、
深く内面的な世界へと没入していく。それがいい。
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の独特の
明るく、暖かみのある音色もすっかり艶消しに
あの色彩的な印象は完全に打ち消されている。
耳に心地よい音はなく、実に辛口なのだけど、
この演奏に奥行きを感じられるにようになって、
自分でも成長したと思う。コリン・デイヴィスは、
派手なことを一切しようとせず、誠実な姿勢で
音楽への向き合い方が、ひとつひとつの音に
にじみ出ている。10年前の交響的変奏曲は
ロンドン交響楽団との演奏だが、いきいきと
色合いも豊かに明るい音楽を聞かせており、
もちろんそれは、作品の性格にもよるけれど、
それからの1970年代にコリン・デイヴィスは、
音楽は引き締まり、突き詰めていったのだと
それを思うとますます感動的にも思えてくる。

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2023年9月17日 (日)

ヨーヨー・マ 18

ヨーヨー・マとエマニュエル・アックスによる
プロコフィエフのチェロ・ソナタ ハ長調 作品119
ラフマニノフのチェロ・ソナタ ト短調 作品19
1990年6月25-27日にウースターのメカニックス・ホール。
今回もヨーヨー・マとエマニュエル・アックスによる
室内楽ボックスから聞いているが、実はこの演奏が、
ヨーヨー・マのはじめて買ったCDで、ということは、
エマニュエル・アックスとも出会いであったのだが、
いま聞くとますます素晴らしく、魅力的なのである。
30年前か、当時のヨーヨー・マの最新盤であったが、
ラフマニノフのチェロ・ソナタを聞いてみたいと思い、
プロコフィエフのチェロ・ソナタはというと、いまほど
メジャーな曲ではなかったのではないか。現在は、
こんなに楽しい曲はないと思うほど好きなのだけど。
ヨーヨー・マは深みある音色でしっかりと歌い上げ、
エマニュエル・アックスの表現はしなやかに自在で
何とも柔らかい表情がこの上なく美しい。聞くほど、
こんなにも心に染み入る音楽はないと演奏もいい。
エマニュエル・アックスは、いま聞いているのでは、
とにかく最高の表現で、理想としかいいようがなく、
しかしはじめて聞いた頃には、それに気付けずに、
その事実は認めざるを得ない。この素晴らしさの
価値に気付けるのに時間がかかってしまったが、
いまはそれを感じられていることに誇りを持とう。
エマニュエル・アックスこそが偉大なピアニストで
何より音がきれいで、うっとりと聞き惚れてしまう。

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2023年9月16日 (土)

ギドン・クレーメル 17

ギドン・クレーメルとマルタ・アルゲリッチのデュオで
プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ 第1番 ヘ短調 作品80
5つのメロディ 作品35bis
ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ長調 作品94a
1991年4月にブリュッセルのラジオBRI、スタジオ4。
このプロコフィエフの演奏は発売と同時に買って、
長く聞いてきたのだが、今回は再発売のソナタ集で
改めて聞き直している。クレーメルとアルゲリッチの
この天才の共演であり、録音から30年が経過して、
いま聞いてもその輝きは少しも変わらないのだが、
アルゲリッチがまさに天才的感覚の躍動を聞かせ、
しかしところどころ乱暴な印象に聞こえてしまうので、
どうしてもそのすべてが完璧といえないのである。
でも丁寧に研ぎ澄まされた音で弾いていたならば、
この豊かな発想というのは得られないのであろう。
素晴らしいことには間違いないので、気を許して、
ここでの音楽に身を委ねてしまえばいいのだが。
仕上がりとしては、アルゲリッチが主導権を握り、
それに合わせて、クレーメルが恐るべき集中力で、
自分の世界の演奏を展開している。響きに対する
その鋭い感性は、本当に驚きの連続なのであり、
聞けば聞くほどに考え抜かれて、超絶的である。
やはりクレーメルはちょっと神がかっているか、
超人的ともいえるが、本当に奇跡の人である。
それをアルゲリッチの巨大な存在感で覆い隠し、
現実を取り戻し、バランスを取っているというか、
そういうことを感じる。天才の行いではあるので、
そのすべてを知りうるのって、実に困難であるが、
偉大な演奏であり、これからも聞き続けることは、
その真価を探り、極める道であると思うのである。

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2023年9月15日 (金)

ペーテル・エトヴェシュ 1

ムジカ・ヴィヴァ2014から
ペーテル・エトヴェシュ指揮バイエルン放送交響楽団で
ヘルムート・ラッヘンマンの「...2つの感情...」
~レオナルドによる音楽(1991/1992)
2014年2月8日にミュンヘンのヘルクレスザール、
ムジカ・ヴィヴァ2011から
スザンナ・マルッキ指揮バイエルン放送交響楽団で
書(2002/2003, 2004改訂)
2011年7月8日にミュンヘンのヘルクレスザール。
ラッヘンマンの作品は素晴らしい。集中度が高く、
緊張感が持続して、何よりも力強い音楽である。
テキストはレオナルド・ダ・ヴィンチの言葉により、
作曲者本人が朗読を務める「...2つの感情...」は、
1990年代のエネルギーの満ちあふれる作品で、
その熱気や興奮に圧倒されてしまう。感動的だ。
特殊奏法の連続で、これぞラッヘンマンという、
ひたすら引き込まれて、夢中になってしまった。
それから10年が経ち、2000年代前半の「書」は、
少し変わり、モノトーンに抑制の中に存在する、
力強い発光が心に刺さってくる。さらなる感動で
本当に素晴らしい作品だ。これは好きである。
サントリーホールの国際作曲委嘱シリーズで
2003年に秋山和慶指揮東京交響楽団により
初演されている。ラッヘンマンは壮絶な作風で
正直なところ、聞くときには心構えが必要だが、
聞きはじめるともうとにかく引きずり込まれる。
ここで紹介されている二作は本当に最高だ。

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2023年9月14日 (木)

パブロ・エラス・カサド 2

パブロ・エラス・カサド指揮フィルハーモニア管弦楽団で
ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲
聖セバスティアンの殉教(交響的断章)
交響詩「海」
2018年1月にロンドンのヘンリー・ウッド・ホール、
ロイヤル・フェスティバル・ホールで収録されている。
わかりやすいところで牧神の午後への前奏曲でも
背景にある音などを緻密に明瞭に再現していき、
不思議なほどに音がよく聞こえてしまうのだが、
そうした最大の特長に対して、色付けに関しては、
実にモノトーンであり、極端に抑制が効いている。
つまりは「海」なども浮世絵というよりは水墨画で
葛飾北斎の波の図が淡い墨の筆使いで描かれて、
というのを思い浮かべるといい。もちろんそこには
古楽のアプローチがあって、音楽を素地で表現し、
質感が生々しく、皮を剝いでしまったら肉が表れ、
筋肉の動きは明らかに、飾るものも隠すものも
そこには何もないのである。かつてなく衝撃で、
しかしそれは嫌ではなく、それどころか、むしろ
真実に出会えての喜びがあって、引き込まれる。
フィルハーモニア管弦楽団で現在の音色だが、
パブロ・エラス・カサドの手に掛かったならば、
音楽は古楽に響き出し、それには驚かされる。
プッチーニは「ペレアスとメリザンド」を聞いて、
その新しい響きにふれて、「トゥーランドット」を
作曲したといわれるが、その世界観でいうと
「聖セバスティアンの殉教」の方がさらに近く、
この独特の音には感動せずにはいられない。
パブロ・エラス・カサドは古い手法を用いつつ、
その音楽は最先端であり、夢中にさせられる。

harmonia mundi HMM902310

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2023年9月13日 (水)

コルネリウス・マイスター 4

コルネリウス・マイスター指揮ウィーン放送交響楽団で
ワーグナーの歌劇「タンホイザー」序曲とバッカナール
第2幕~崇高な殿堂よ(エリーザベトの挨拶)
ヴェーゼンドンクの5つの詩
楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
独唱はアンネ・シュヴァーネヴィルムスで
2013年5月にウィーンのORFフンクハウスで収録。
バイロイト音楽祭2022の「ニーベルングの指環」で
コロナで降板したピエタリ・インキネンの代役として、
急遽、登場して、そこで緊急に招集されたのには、
ワーグナーの楽劇でも実績があるということだが、
アンネ・シュヴァーネヴィルムスの歌を中心として、
こちらは10年前のワーグナーの作品集である。
「タンホイザー」と「トリスタンとイゾルデ」であり、
ヴェーゼンドンクの歌曲も含み、世界は広がる。
ウィーン放送交響楽団の明るい音色は魅力だが、
細やかなところで表情が大きいのが少し気になり、
研きはかからず、輝きや艶も出てこないのだが、
やはりウィーンのオーケストラで音は素晴らしい。
ザラザラした感じが出てくると気持ち悪いのだが、
しかしこれはリアルな感触でもあり、臨場感として、
むしろ積極的に楽しんだ方がいいのかもしれない。
アンネ・シュヴァーネヴィルムスは「ばらの騎士」で
元帥夫人のイメージが強く、「タンホイザー」では
エリーザベトを歌うが、貫禄あり過ぎで驚かされる。
何となく「タンホイザー」は凸凹とした印象があって、
しっかり収まらず、大味な仕上がりではあるのだが、
「トリスタンとイゾルデ」は、断然に素晴らしくなる。
細かく動き回るよりも悠然としている方がいいのか、
のびやかに鳴り出し、彼方への響きもそれをつなぐ、
間のとり方もすべてが魅力的になり、引き込まれる。
ワーグナーを歌い上げる呼吸こそが命なのであり、
これは感動的だ。「トリスタンとイゾルデ」の全曲が、
聞きたくなってくる。ぜひ楽劇を全曲版で聞きたい。

CAPRICCIO C5174

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2023年9月12日 (火)

セミヨン・ビシュコフ 14

セミヨン・ビシュコフ指揮チェコ・フィルによる
チャイコフスキーの弦楽セレナード ハ長調 作品48
マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58
2017年4月24-28日にプラハのルドルフィヌム。
弦楽セレナードは何となく濃厚なイメージがあり、
派手な感じがするのだが、ビシュコフは力が抜け、
どこか素朴でもあり、淡い中での柔らかい表情が、
実に特長である。こうした響きで繊細でもあって、
細やかな表現が美しく、しなやかに活きてくる。
弦の擦れや振動もこちらに伝わってくるようで、
色彩を抑えての淡彩というより水墨画に近いが、
この質感の味わいが素晴らしく、心が震える。
華麗な音色を追求せずに、この穏やかさもまた
実に魅力である。後半のマンフレッド交響曲は、
最初の発売のときに聞いており、交響曲全集で
再発売ということになるが、こちらも同じであり、
気合いが入り過ぎている、ということがなくて、
音楽の自然な流れがいいのである。力みなく、
柔らかい音色としなやかな響きが魅力であり、
やはりチェコ・フィルの表現は究極なのである。
マンフレッド交響曲も大袈裟なイメージがあり、
しかしここでは、そうしたこともなく、心地よい。
洗練された演奏といいたいが、やはり力強く、
劇的な展開での情景の豊かさは最高であり、
チャイコフスキーの音楽に酔いしれている。

DECCA 483 4942

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2023年9月11日 (月)

ジョナサン・ノット 5

ジョナサン・ノット指揮バンベルク交響楽団で
マーラーの交響曲 第1番 ニ長調「巨人」
2005年12月19-21日、2006年2月1日に
バンベルクのコンツェルトハレで収録されている。
ジョナサン・ノット指揮バンベルク交響楽団による
マーラーの交響曲全集を収録順に聞いている。
冒頭から爽やかに清々しい音色に引き込まれて、
高原のような空気は、最高の気持ちよさである。
非常に丁寧に歌い込まれて、アバドのシカゴでの
マーラーの「巨人」の演奏が浮かんできたのだが、
この独特の透明感には何か共通のものを感じる。
細部の表現での明瞭な感覚はかなりのこだわりで、
分解されて、各要素がくっきりと浮かび上がるが、
精密な再現というのではかつてない緻密さであり、
徹底して作り込まれている。しかし無理なところは
どこにもなく、極めて自然な流れを生み出しており、
すべてが合理的で、これこそがジョナサン・ノットの
最大の魅力といえるのであろう。聞けば聞くほどに
深い感動であり、どこまでも冷静に端正な造形を
追及しているジョナサン・ノットとはギャップだが、
この絶妙なバランス感覚とその調和がたまらない。

TUDOR 1670

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2023年9月10日 (日)

ルドルフ・ブッフビンダー 10

ルドルフ・ブッフビンダーで様々な作曲家による
ディアベッリの主題による52の変奏曲
1973年1月にベルリンのテルデック・スタジオで収録。
アントン・ディアベッリが50人の作曲家に委嘱した、
52の変奏とコーダで成り立っている長大な作品で
ベートーヴェンやシューベルトの時代にこんなにも
知らない作曲家がたくさんいるのかと驚かされる。
シューベルトやフンメル、ツェルニー、リストなどは
知っている作曲家で、シューベルトの親友であり、
ベートーヴェンの最期に立ち会ったとされている、
アンゼルム・ヒュッテンブレンナーもここにいる。
ベートーヴェンのあの偉大な変奏曲と比べると
物足りなさというのは、どうしようもないのだけど、
様々な作曲家が集まり、一貫性のなさは仕方なく、
それにしても不揃いで、装飾を付けたぐらいの
あまり変化のない変奏もあれば、別の曲になり、
よくわからないものもあるし、実に多様である。
これを聞いているとベートーヴェンの変奏曲が
いかに優れているか、素材を活かし、発展させ、
決してそこから離れず、他の作曲家たちとは、
次元が違って素晴らしいのであり、ここまでも
差が出るとは、改めて目からウロコなのである。
50通りの変奏曲を長時間、聞き続けていると
ちょっと辛くなってきて、途中から飽きてしまうが、
取り組んでくれたルドルフ・ブッフビンダーには、
貴重な録音を残してくれたとこれも偉業である。
その後に新たなるディアベッリ・プロジェクトで
ブッフビンダーは、現代の作曲家に委嘱して、
追加された21世紀の変奏曲も録音している。
もちろんベートーヴェンの変奏曲も演奏されて、
次回はそちらを聞いていきたい。期待できる。

Warner 0190295317492

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2023年9月 9日 (土)

ルドルフ・ブッフビンダー 9

ルドルフ・ブッフビンダーによるベートーヴェンで
ディアベッリの主題による33の変奏曲 作品120
1973年1月にベルリンのテルデック・スタジオで収録。
ルドルフ・ブッフビンダーのごく初期の録音であり、
26歳の演奏である。しかし経歴を見ると早熟の人で
10代の頃から室内楽など、広く活躍していたそうで、
若々しい演奏というよりは、この時点でも落ち着いて、
すでに風格が備わっているようなところもあるのか。
50年前ではあるが、録音に古さはなく、聞きやすく、
何よりもブッフビンダーの演奏に現在と変わらない、
普遍性が存在している。ピアノの音が少々古いが、
1970年代の前半ならば、この感じの仕上がりか。
ルドルフ・ブッフビンダーの切れ味のよい演奏には、
爽快感すら漂い、速度感覚の鮮やかさは聞く人を
強く引き付ける。集中力の高さは圧倒的である。
有名なベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集よりも
こちらは先行してのディアベッリ・プロジェクトで
様々な作曲家に委嘱された本来の変奏曲の方を
続けて聞いていきたい。そちらはやはり珍しいか。

Warner 0190295317492

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2023年9月 8日 (金)

ピエール・ローラン・エマール 2

ムジカ・ヴィヴァ2013から
ジョナサン・ノット指揮バイエルン放送交響楽団と
ピエール・ローラン・エマールのピアノによる
ヘルムート・ラッヘンマンのアウスクラング
~ピアノとオーケストラのための(1984/1985)
2013年4月26日にミュンヘンのヘルクレスザール。
「アウスクラング」とは、「終止音」や「終結音」とか、
かつては「終焉」などと訳されたこともあるようだが、
題名から作品をイメージするのは、ちょっと難しい。
いかにも現代音楽の響きがする作品なのであり、
美しい音色とはいえないのだが、ファンにとっては、
それが美しく聞こえたりするのである。前衛路線で
これぐらいに突き抜けてくれた方が満足度も高く、
1980年代の過激な作品があふれていた時代だ。
巨大に破壊的な音響が轟くのかと思うと逆であり、
点描的な作風によって、強い緊張感で進んでいく。
ピアノ協奏曲の感じではなく、オーケストラとは
対等の関係であり、一体の印象もあるのだが、
並列に対話を重ねて、音楽が展開されていく。
ラッヘンマンといえば特殊奏法であり、多様に
驚くべき種類の音が示されるが、多彩にならず、
極めてモノトーンな世界であることも特徴である。
感覚で捉えることも難しいし、頭で理解するのは
さらに困難であろうと、これがラッヘンマンであり、
実に硬派で、まさに現代音楽で熱くなってしまう。
ひたすら聞くしかなく、この衝撃の響きが徐々に
侵食してくるという、この感覚がたまらないのだ。

NEOS NEOS11423

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2023年9月 7日 (木)

ベルナルト・ハイティンク 51

ベルナルト・ハイティンク指揮バイエルン放送交響楽団で
ブルックナーの交響曲 第4番 変ホ長調(1878/1880)
2012年1月19,20日にミュンヘンのフィルハーモニー。
この半年前のロンドン交響楽団との第4番とも共通で
2010年以降のハイティンクの演奏にはいえるのだが、
清々しさというより、眩しさが感じられ、強い光であり、
この重厚で堅牢な交響曲における透明感ではあるが、
間違いなくハイティンクにしか出せないものというのが
ここでのブルックナーには存在している。色付けをせず、
この無色の仕上がりが、ハイティンクが到達した境地、
長年、ブルックナーを演奏し続けて、その先に現れた、
情景というものがここに示されている。ブルックナーの
長大な音楽を表現することは、忍耐であるといわれたが、
ハイティンクは頑なにそれを実践してきた人なのであり、
かつては集中力で聞かせていたが、後年の演奏では、
ごく自然体であり、ここでもよい流れを生み出している。
ハイティンクの死からまもなく二年で、10年前の録音が
ここで新たにCD化されたが、偉大な記録を聞けるのは、
喜びなのであり、残された録音をぜひ出し続けてほしい。

BR 900213

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2023年9月 6日 (水)

ダニエル・ハーディング 7

ダニエル・ハーディング指揮バイエルン放送交響楽団による
ホルストの組曲「惑星」 作品32
2022年2月24,25日にミュンヘンのヘルクレスザール。
演奏時間が56分超と非常に長く、ハーディングなので、
単に遅いということではないと思っていたが、聞くとやはり
非常に丁寧な音作りで、美しい響きの精妙の極みである。
音楽の隅々にまでしっかりと描き込み、輪郭を明瞭にし、
その構造を明らかにして、残響も音の減衰も徹底して、
こだわり抜いた完成された表現である。流されることも
勢いで駆け抜けることもなく、この突き詰めた姿勢には、
すっかり引き込まれてしまう。しかし一方で、精緻なほど、
研ぎ澄まされていればいるほどに「惑星」独特といえる、
情景的な効果やここに存在する物語性など、そうした
豊かな広がりは乏しいのか。完璧なほどに聞き進むと
何かの欠如に気付かされてしまう。しかし究極なのは、
間違いなくて、バイエルン放送交響楽団のその精度に
圧倒されてしまうのだが、その緻密さが美しい響きに
しっかりとつながって、聞けば聞くほどに深みが増す。
かつての「惑星」で映像的な効果で派手に聞かせる、
一方で神秘性や響きの浄化をとことん追求するなど、
そうした方向性というのは、薄れる傾向にあるのか、
ホルストが作品に示した響きを純粋に再現していき、
近年はそうした演奏も多くなって、それに尽きるのか。
そうした中で生まれた究極が、この演奏かもしれない。

BR 900208

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2023年9月 5日 (火)

マリス・ヤンソンス 22

マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団による
R.シュトラウス アルプス交響曲 作品64
2016年10月13-15日にミュンヘンのフィルハーモニー、
交響詩「死と変容」 作品24
2014年2月24-28日にミュンヘンのヘルクレスザール。
ヤンソンスはアルプス交響曲が気に入っていたと思えて、
これまで様々なライヴ録音が存在し、聞くことができたが、
この録音が最後となったか、極めつけともいえるであろう。
ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団ならば、引き締まり、
スッキリと聞かせるのを想像するけれど、むしろ大胆に
たっぷりと歌わせて、アルプスの山々は雄大なのであり、
これは最高の感動である。まさに偉大な存在を感じさせ、
ここまで満たされた感覚というのも得られるものではない。
ヤンソンスであり、その造形の確かさは、この上ないが、
その頂上を越えて、大きなうねりを生み出し、登山者の
山頂での気持ちの広がりや嵐の場面でのとてつもなく、
巨大な恐怖心を破壊的にギリギリの音響で描き出して、
とにかくすごいのである。普段より少しだけ雄弁に歌い、
その豊かさが聞く人に大いなる感情を呼び起こさせて、
この絶妙な加減というのが、ヤンソンスが極めた境地か。
そして後半は「死と変容」だが、こちらは空気も変わって、
透明感が印象的であり、もちろんその感覚というのは、
人が死にふれたときに生きることの意味を知るという、
そうした情景だが、ヤンソンスがここで描き出している、
色合いや大きさ、その尊さに感動せずにはいられない。
ヤンソンスの晩年ということになってしまったわけだが、
この時期のヤンソンスの音楽は、本当に素晴らしい。

BR 900148

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2023年9月 4日 (月)

ヘルベルト・ブロムシュテット 28

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮サンフランシスコ交響楽団で
マーラーの交響曲 第2番 ハ短調「復活」
1992年9月21-23日にデイヴィス・シンフォニーホール。
ブロムシュテットのサンフランシスコ時代のマーラーで
様々なCDが制作された時期にあって、この「復活」が
マーラーでは唯一の録音であり、貴重な演奏である。
歯切れのいい響きでスッキリとどこまでもクリアであり、
マーラーの演奏でよく聞かれる熱い感じというのはない。
アメリカのオーケストラだが、北欧的な爽やかさなのか、
細部まで美しい響きを追及し、丁寧に精妙に歌い上げ、
熱量に関してはいかにも低めである。表情付けでは、
じっくりと細やかに様々な想いが伝わってくるのだが、
何より特長なのは、洗練された仕上がりなのである。
このところ聞いていた他の演奏のイメージにもよるが、
ブロムシュテットがマーラーで示す方向性というのは、
かなり独特なものかもしれない。長大な終楽章にて、
雲が晴れ渡り、光が差し込み、この不思議なほどの
透明感というのは、出会ったことのない感覚である。
感情を爆発させることなく、冷静に振る舞う姿勢には、
最初のうちは戸惑いもあるけれど、聞き進むうちに
ここでもブロムシュテットの音楽への向き合い方に
やはり引き込まれ、静かに深く感動するのである。

DECCA 478 6787

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2023年9月 3日 (日)

イーヴォ・ポゴレリチ 19

イーヴォ・ポゴレリチによるスカルラッティで
ソナタ ホ長調 K.20:、ホ長調 K.135
ニ短調 K.9、ニ長調 K.119、ニ短調 K.1
ロ短調 K.87、ホ短調 K.98、ト長調 K.13
ト短調 K.8、ハ短調 K.11、ト短調 K.450
ハ長調 K.159、ハ長調 K.487
変ロ長調 K.529、ホ長調 K.380
1991年9月にハノーヴァーのベートーヴェン・ザール。
ポゴレリチのスカルラッティのソナタ集もはじめて聞く。
バッハ、ハイドン、モーツァルトの古典的な様式による
それらの作品もポゴレリチは熱心に演奏してきたが、
当時は聞き逃していたので、DG録音全集によって、
聞くことができた。硬質な輝きであり、独特な光を放ち、
全く違った世界が広がっている。この鋭利な感覚が
個性的な味わいを聞く人に与えるけれど、一方では
柔軟な運動性と流線形のしなやかさに強く惹かれる。
調性の配置が考え抜かれており、色合いの変化だが、
作品の構成、音楽の展開も魅力的だ。緩急や剛柔、
様々な性格と色彩を組み合わせ、鮮やかに描き分け、
連なる小品の集合体だが、どこにも緩みは見られず、
少しも飽きさせない。完全無欠の結晶体なのである。
やはりポゴレリチほど面白いピアニストはいないし、
聞けば聞くほど天才的で、夢中になって聞いている。

DG 00289 479 4350

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2023年9月 2日 (土)

イツァーク・パールマン 11

イツァーク・パールマンのヴァイオリン、
ダニエル・バレンボイムのピアノによる
モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを聞いている。
ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.378
ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K.379
ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 K.380
1986年11月にニューヨーク州立大学で収録。
バレンボイムのピアノがここでも硬質な響きで
明瞭な音楽を聞かせるのだが、微笑みかけて、
その表情の豊かさには、引き込まれてしまう。
といってもその後の演奏や現在であったなら
もっと大胆に雄弁に歌い込むのであろうけど、
この時代は若々しく、切れ味がいいのである。
印象としては、シンプルにスッキリとしている。
なんて素晴らしいのか、夢中になってしまう。
パールマンもいきいきと弾き、優美な音色と
一方の力強い歯切れよさでメリハリが効いて、
この時代の二人ならではの音楽に感動する。
パールマンが41歳であり、バレンボイムは
このとき44歳である。充実の活動期であり、
決して若き日の録音ということもないのだが、
その輝きと瑞々しさは圧倒的であり、最高だ。
バレンボイムに関して、シカゴやベルリンで
要職に就く前であり、ピアニストのイメージが
まだ強かった時代であり、まさに極上の演奏。
ピアノに関しては、この時代のバレンボイムが
やはり一番、好きかもしれない。1980年代が
最も安心して聞けるのであり、原風景である。
バレンボイムのこの音色で、育ってきたのだ。

DG 479 4708

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2023年9月 1日 (金)

ピエール・ローラン・エマール 1

ムジカ・ヴィヴァ2012から
ジョージ・ベンジャミン指揮バイエルン放送交響楽団で
リゲティのロンターノ(1967)
ピエール・ローラン・エマールの独奏による
トリスタン・ミュライユの世界の幻滅(2011/2012)
~ピアノと管弦楽のための交響的協奏曲
ジョージ・ベンジャミンのパリンプセスツ(1998-2002)
2012年5月2-4日にミュンヘンのヘルクレスザール。
現代音楽の古典ともいえる「ロンターノ」にはじまり、
時代は変わり、演奏の精度も格段に上がっており、
その響きの美しさには驚かされる。演奏が上手いと
音色はますます研きが掛かって、大音響ではなく
室内楽のような透明感が生まれ、繊細なのであり、
バイエルン放送交響楽団はとにかくすごいのである。
あまりの素晴らしさで、時が経つのを忘れてしまう。
続いては、ピエール・ローラン・エマールが登場し、
ミュライユのピアノ協奏曲だが、これがもう最高だ。
なんて美しい響きなのであろう。現代作品であるが、
ピアノをクラスター奏法のための楽器として扱わず、
ピエール・ローラン・エマールは、穏やかな表現で
優しく含みのある音色であり、深い世界が広がる。
印象派作品の延長線上といってもよく、親しめる。
ミュライユの名前は、このところ、よく見かけるが、
作品を聞くと魅力的であり、ますます好きになる。
リゲティから影響を受けたミュライユ、そこから
さらに影響を受けたジョージ・ベンジャミンという、
そうした作品の流れであり、素晴らしい選曲だ。

NEOS NEOS11422

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