2016年11月21日 (月)

小噺「徒乱不塔の人々」

えェ、ここは江戸の中心、日本橋でございますが、そこに
大そう羽振りのいい徒乱不(とらんぷ)屋という店がありまして、
持っている長屋も変わっておりまして、間口は変わりませんが、
高さが百十二間という、現在の値に換算いたしますと
二百二メートルという、58階建ての長屋でございまして、
それを徒乱不塔などと申しますが、そこに住んでいる者も
また地主に劣らぬ、一風変わった者ばかりでございまして、

「よぉ、ずいぶん威勢がいいじゃねえか、博打で儲けたか」
「いやぁ、すってんてんに取られた、一文無しだ」
「お前ェ、そのわりには、ずいぶん偉そうにしてるじゃねえか」
「長屋の地主さんが今度将軍様になるのよ」
「馬鹿なことをいうもんじゃねえ、将軍様は徳川様に
決まってるじゃねえか、間抜けなこといってると笑われるぜ」
「俺もそう思ってたんだけどよぉ、それがそうでもねえらしいや」
「なに、この前ェ、大騒ぎしてた、大将軍選挙ってやつかい」
「そうよ、蓋開けたら、選ばれちまったんだから仕方ねえや」
「取り返しがつかねえってやつだな」
「まさかそんなことはあるめェって思ってたんだけどよぉ」
「そうさ、みんな、そういってたぜ」
「隠れキリシタンじゃねえ、隠れ徒乱不ってのがいたらしいや」
「なんだ、モグラみてェな野郎だな」
「うちの地主は、普段から口が悪くてよぉ、嫌われてるんだ」
「聞いてるぜ、自分とこの店子しか、よくいわねえらしいな」
「それがよう、決まった途端にこの前も浅草安倍川町の
地主ってのが訪ねてきてよぉ、挨拶していきやがった」

「長ェものには巻かれろってやつだな」
「土産もらって、気をよくしてたぜ」
「お城ん中もそっくりお役人を入れ替えるらしいなァ」
「それでお店には、引っ切り無しに人が出入りして、
誰がお役に就くのかって、大騒ぎだァ」

「それじゃ、これから江戸の街も変わるだろうなァ」
「いやァ、そうでもあるめえ」
「どうしてだい」
「選挙でもう、札は切っちまった」

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2012年4月28日 (土)

小噺「易者の占い」

夜になりますと辻には易者というものが出ておりまして、
占いでございます。「易者身の上知らず」などと申しまして、
易者という方は、他人の身の上は占っても…
自分のこととなるとわかっていないなどと申しますが、
当たると評判になりますと相談の方が列を作りますようで…

客の男:あの…どうぞ占っていただきたいのでございますが…
易者:どうぞ、そこにお掛けなさい。
客の男:商売のことでございまして、長年のお馴染み様から
新しいお取引先を紹介していただきまして、
そちら様と今後、商売をさせていただくか…ということを
占っていただきたいのでございますが、いかがなものでございましょうか?

易者:ほおほお。そちらの方とはすでにお会いになっておられるので…
客の男:はい。二度ばかりお会いさせていただいておりますが、
どうも気が合わないと申しますか…私はこのように大らかな性格でございまして、
そちらの方は気を急いていると申しますか…少々短気なお方でして…

易者:そのように易にも表れておりますな…あなたは慎重にお考えのようで…
客の男:はい。その通りでございます。相手様のお人柄を何よりも大切にして、
これまで商売をしてきたのでございます。

易者:そのように易にも表れておりますな…目先の利益にとらわれず、
慎重に歩めば、この先、また新しい力となる者現れると出ております。
客の男:どうもありがとうございます。真におっしゃる通りでございます。
易者:はい、次のお方、お掛けなさい。
客の女:私、ある人から夫婦になってくれって、いわれてるんですけど
どうしようか…って、占っていただきたいんですけどね…

易者:ほおほお。その方とは長いお知り合いで…?
客の女:そうなんですよ。同じ町内で子供の時分から知ってるんですけど
ふふふ。それがずっと私にだけ優しくて…この前なんか、神社のお祭りに行って、
お前、この腰巻を買ってやろうか!なんて、突然言い出すもんだから、恥ずかしくて…

易者:はいはい。あなたはそのお方を昔から知っておられるし、悪くは思っておられない。
客の女:そうなんですよ。いやだ、先生ったら、何もかもお見通しなんだから…
易者:はいはい。そのように易にも表れておりますな…
客の女:外見はそれほどってこともないんですけど…いい人なんですよ!
易者:はいはい。そのように易にも表れておりますな…よろしいのではないのですかな?
易にもそのように表れておりますしな…そのお方を大切になさい。
客の女:先生。ありがとうございます。お陰様で決心がつきました。
易者:はいはい。また何かありましたら、相談にお見えなさい。

隣の易者:いや…あなたの易は本当にお見事ですな。なんでも当てなさる。
易者:いえいえ。それほどのこともないのでございますよ。
隣の易者:私は駄目です。一所懸命に占っているのですが、何も見えてきません。
易者:いや、あなた。占いというものは、相談に来られた方の心に正直に
心の中にある言葉を引き出せばよろしいのですよ。言葉を導けばよろしいのですよ。
隣の易者:はあ、そういうものですかな。でも私、口下手ですからな…
易者:相談に来られる方は、大体は気持ちの整理はついているものなのでございます。
あとは誰かに背中を押してほしいだけ…そうすれば、自然に道は開けますので。
隣の易者:ほお。となりますと…あなたは易を立てているようで…本当は立てていない?
易者:ははは。まあ、そういうことになりますかな…

八五郎:おい!ちょっと座らせてもらうよ。
易者:相談のお方かな?どうぞお掛けなさい。
八五郎:はあ?遭難のお方?俺は八五郎ってんだ。
易者:八五郎さん、あなた、大そう酔っていらっしゃる。
八五郎:そう!ご機嫌だよ。今日は建前でよ。俺はでえく。大工。職人だよ。
明日からも頼むよって、酒から旨いもんから…たらふく御馳になってよ。

易者:なるほどなるほど。それでは明日からのお仕事の成り行きを占ってほしいと…
八五郎:はあ?あんた、そういう難しいことよくわかんねえけどよ、
うちの棟梁がよ…八!しばらく遊ばしちまったけど、今度はお屋敷の仕事だから
長くなるぜ!ってよ。あんた知ってるか?神田竪大工町の政五郎っていや、
知らねえやつはいねえや。面倒見がいいのよ。俺は棟梁のためならよ…

易者:はいはい。仕事のお仲間には大そう恵まれているようですな。
八五郎:なに?仲間?それがよ。左官の金太郎ってやつがいてよ。
そいつが俺は気に入らねえのよ。この前もよ。俺が三両と書付と印形の入った
紙入れを落としちまってよ…そうしたらあいつ拾って、わざわざ届けてくんのよ…
もってきてやったよって、嫌味なこといいやがって、金はくれてやるって、
そうしたら受け取らねえとかぬかしやがって、それから大家も出てきて、大喧嘩よ。

易者:ほお。あなた、その争いごとの成り行きを占ってほしいと…
八五郎:はあ?なに?おめえ、成り行き成り行きって、いってえ、なんだよ。
易者:あなたがこの先、よい方へ向かうか?悪い方へ向かうか?
それを占ってしんぜるのが易者の務めでな…
八五郎:向かう…おお、そうだそうだ。こんなとこで油売ってる場合じゃねえ。
早えとこ帰って、寝ねえといけねえや。職人の朝は早いのよ。
あんたもよ。もう夜は更けてんだから、とっとと帰って、寝た方がいいぜ。

易者:あなたは何の相談でここへ来られた?
八五郎:ここへ?はあ?帰り道にちょっと疲れたから、休ませてもらっただけよ。
易者:あなた、ちょっとあなた、見料、見料!
八五郎:あんたもよ、こんな夜に出歩かないで…
お天道様の下を歩いてたら、きっといいことあるぜ。あばよ。

易者:私としたことが…何という愚かなことを…
隣の易者:いや、見ていましたよ。たいへんでしたね。酔っぱらいの相手は。
易者:私、今日を限りに易者を辞めることにいたします。
隣の易者:何でですか?酔っぱらいに絡まれたぐらいで…そんな。
あなたたいへん繁盛しているのだし、辞めちゃ、もったいないじゃございませんか。

易者:いえ、もうこれ以上続けることはできません。
隣の易者:どうしてですか?
易者:私、毎日、仕事に出る前に身を清め、今日の運勢を占っているのですが、
この大難、易には現れなかったのでございます。

ありがとうございました。

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2012年1月 7日 (土)

小噺 「年越し風景」

甚兵衛さん:おぉ…寒い。戻ったよ。
おかみさん:お前さん、少しは貰えたのかい?
甚兵衛さん:それがさぁ…ちっとも駄目だ。
おかみさん:どうするんだい!年が明けちまうよ。
甚兵衛さん:普段は、甚兵衛さんは親切だね…
いい人だね…っていってくれるのに、大晦日に掛取りに行くと
払う銭はないよ!って、恐い顔で睨まれちまってさ。
そうすると俺はどうしようもできなくて…
来年もよろしくお願いしますって、挨拶して帰ってきた。
おかみさん:嫌だね。お前さんがそんなだから、うちは貧乏で貧乏で。
人がいいから…バカにされてるんだよ。ああ、情けない。
甚兵衛さん:今日は大晦日だから、明日は元日だよ。
おかみさん:そんなの当たり前じゃないか。
甚兵衛さん:どこの家も正月の仕度があるから払う御足はないんだよ。
おかみさん:どうするんだい。うちにだって正月は来るんだよ。
甚兵衛さん:だから…ねえもんは仕方ねえじゃねえか。
おかみさん:ああ…もう愛想が尽きたよ。離縁しておくれ。
甚兵衛さん:おお…聞いてみねえ。除夜の鐘が聞こえるよ。
おかみさん:もうどうするんだい。貧乏暮らしはまっぴらだ。泣。
甚兵衛さん:おお、びっくりした。あんた、誰だ。
爺さん:ようやく見えたのかい?
わしはこの家に住みついとる貧乏神じゃよ。
甚兵衛さん:へえ?なんですね?貧乏神?
爺さん:夫婦喧嘩も…まあ…その辺にしておきな。
甚兵衛さん:嫌だな。あんた、貧乏神がいるから
掛取りに行ってもちっとも払ってもらえないわけだ。
爺さん:それは違う。お前さんの性格じゃよ。
金が入ってこないのと貯まらないのとは別じゃ。
まあ…そんなことはいい。わしも年をとってな…
今年をもって、この家を出ていくことになった。
代わりに福の神が来るから。そろそろ来る頃じゃ。
来年からはお前のところもよくなるぞ。
甚兵衛さん:あなたずっとこの家にいたんですか?
ちっとも知らなかったなあ。
爺さん:お前さんの生まれるずっと昔からじゃよ。
わしもな…若い頃は福の神だったんじゃ。
今度、江戸という町ができるから
福をたくさん持って行って来いと…ここに来たんじゃ。
でもそれから二百年以上がたって、
今度、新しい神がやってくる。わしも仕事納めじゃ。
甚兵衛さん:わあ!子供が来た!何だお前。
子供:新しくこの家に参りました福の神と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
(ドンドンドン)
お得意先:ああ、甚兵衛さん、悪かったね。
遅くなっちゃったけど、お金持ってきたから。
許しておくれ。また来年もよろしく。
次々に借金の返済の方々が訪れまして…
おかみさん:ああ…驚いたね。残らずみんな払ってくれたよ。
多く払っていった人までいるよ。これで正月が迎えられるね。
甚兵衛さん:まだ間に合うな。大家さんのとこに行ってくる。
おかみさん:何だい?
甚兵衛さん:溜まってた家賃を払ってくるよ。
おかみさん:それがいいよ。行っておいで。
きちんと挨拶してくるんだよ。
(ドンドンドン)
甚兵衛さん:大家さん、大家さん。
大家さん:何だい、こんな時分に…甚兵衛さんじゃないか。
何かあったのかい?
甚兵衛さん:店賃払おうと思って、遅くなってすみません。
大家さん:お前のところも…昼間行ったんだけどさ。
爺さんにないって言われたから。いいよ。無理しなくて。
甚兵衛さん:へっ?大家さんも見えるんですか?
大家さん:何がだよ。
甚兵衛さん:貧乏神。
大家さん:はあ?貧乏神?
甚兵衛さん:いやいや…いいんです。
大家さん:お前のところは、行くといつも爺さんが
ないないって、にっこり笑ってさ…
まあ、あの笑顔を見てると…ここ一軒ぐらい
大したことないか…って、思っちまってさ。
甚兵衛さん:知らねえとこで借金の言い訳してくれてたんだね。
そういや…おれんとこは、掛取りに行って苦労はしてたけど、
掛取りに来られて苦労したことはねえな…
不思議だなとは思ってたんだけどさ。
大家さん:お前、何ぶつぶつ言ってんだ?
年寄りは大切にしなよ。
甚兵衛さん:いや、大家さん、もういいんです。
大家さん:何がもういいんだ?
甚兵衛さん:新年からは福の神の子供が参りました。

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2011年7月27日 (水)

小噺「粗忽の電話」

粗忽なお方には、マメでそそっかしい方と
のんびりしていてそそっかしい方とがあるそうでして…

チリリリリ…チリリリリ…
熊:兄ぃ、電話がかかってるよ。
八:おい、熊。いま、手が離せねえ。出てくんねぇ。
熊:そうかい。じゃあ、出てみるか。
八:早く出ろい。切れちまうぜ。
熊:はい、もしもし。

オレオレ:俺だけど…俺だけど。
熊:どちら様ですか?八五郎兄ぃのお宅ですけど…
オレオレ:だから俺だよ。八五郎だよ。
熊:兄ぃ、電話の向こうで兄ぃが電話してきたよ。
八:おお、そうかい。要件を聞いてくんねぇ。
熊:わからねえなあ。電話の向こうが兄ぃなら、
いまここにいる兄ぃはどちら様の兄ぃかねえ。
あの…ご用件は?

オレオレ:さっきよ、大黒屋の荷車にぶつかっちまって、
荷物がひっくり返っちまって、それで相手先に届けらんねえ。
荷物の分を弁償しろっていうのよ。弁償しねえと
お上に訴えて出るって、いいやがるのよ。
お前、悪いけど、今すぐ二両の金、持ってきてほしいんだ。
熊:そうですか。それはたいへんですね。
ちょっとお待ちください。いま兄ぃに相談してみます。

オレオレ:何でもいいけど、早くしてくんねえ。
早く片付けねえと、しょっ引かれちまう。
熊:兄ぃ、大黒屋の荷車とぶつかったのかい?
八:はあ?何のこってぇ?荷車とぶつかった?
熊:弁償しないといけないんだろ。
八:電話を代わってやらぁ。
おい、八五郎だけどよ。荷車とぶつかったってどういうことでぇ?

オレオレ:はい?ご本人がいらっしゃるので?
八:そんなことはいいんだよ。お前、弁償しねえとたいへんなのかい?
オレオレ:え~…そういうことになりますかなあ。
八:何をお前、落ち着いたこといってんでぇ。一刻を争うじゃねえか。
オレオレ:そういうことでしてね。二両の金を持ってきてほしいのですが…
八:おお、合点だ!いま金をかき集めるからよ。
熊:兄ぃ…それはダメだぜ。これは、オレオレ詐欺ってんだよ。
大家さんがこの間、いってたよ。お前はそそっかしいんだから注意しろって。

八:何?そうなのかい?俺にはよくわかんねえが…
熊:もう一度、俺が代わってやるよ。
オレオレ:あのお…お金は持ってきていただけるんでしょうかね?
熊:ダメだよ、お前さん。オレオレ詐欺ってんだろ。
第一、二両の金を持って行ったとしても、お前さんは、
兄ぃと顔が違うんだから…八五郎じゃないだろう!って、バレちまうよ。
オレオレ:いやあ、それなら大丈夫。これぐらいのことで騙されるんだから
別な顔だぐらいじゃ、自分だって、気が付くめぇ。


ありがとうございました。

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2011年7月10日 (日)

小噺「与太郎草履」

若旦那:おや、与太さん、こんつわぁ~。
与太郎:あ~伊勢屋の若旦那だ。いつ見ても変ですね。
若旦那:そうはっきりもの申されますと拙などは困ってしまいやすが…
与太郎:若旦那の着物はピカピカしてますね。
若旦那:拙などはそのような目立つところに御足を使うのではないのでやして、
この履物など、大そう贅沢なものでありやすな。履物道楽というのでありやす。
与太郎:御足だから履物なのかい?
若旦那:またご冗談を。与太さんの履いてなさる草履なども
鼻緒の色が抜けているところなど風流でげすな。
その脇なぞがきれていなさるところなど粋でげす。
そのボロボロで後は捨てるだけなところなど乙でげすな。
ではご婦人などが拙のことを待ちわびていやすので
この辺で失礼いたしやす。ごきげんよう~
与太郎:はい。さいなら。履物なぞに御足を使うと道楽でげすな。
履物が新しいと若旦那になれるのか~そうか。

荒物屋:へい、いらっしゃい。お~与太さん。お使いか?
与太郎:おじさん、こんつわぁ。
荒物屋:ああ、こんつわぁ。変わった挨拶だね。
与太郎:そうはっきりもの申されますと拙などは困ってしまいやす。
荒物屋:ははぁ…まだ挨拶しただけなんだけどね。今日は何買いにきた?
与太郎:おじさんは履物なぞ、売ってなさりやすか?
荒物屋:ああ…草履でも下駄でも。置いてるよ。
与太郎:色が抜けているのが風流で、脇が切れているのが粋。
ボロボロで後は捨てるだけが乙でげす。

荒物屋:それはお前さんの履いている草履だろ。
与太郎:ご婦人などが拙のことを待ちわびていやす。
荒物屋:おっかさん、待ってるのかい?
ちょっとその履いてる草履、見せてごらん。
ああ…与太さん、底が抜けているよ。
それでおっかさんに草履買って来いっていわれたんだな。

与太郎:粋で乙でげすか?
荒物屋:そんなの履いてたら、足の裏が傷だらけになっちまうよ。
与太郎:ああ、道理で(草履で)足が擦り減った。御足がないはずだ。


ありがとうございました。

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2011年6月21日 (火)

小噺「粗忽の稽古所」

え~、従前はと申しますと…
今ほどに楽しみというものがありませんでしたので
どこの町内にも稽古所というものがありまして
長屋中、そろって習い事に出掛けたという。
ちょっと色っぽい女の師匠だったりしますと
男どもは稽古が目当てなのか?
師匠が目当てなのかわからなかったそうな…

辰つぁん:師匠!稽古に来たよ。
師匠:あら、辰つぁん、早いわね。7時からでしょ。
辰つぁん:仕事が終わって、飛んで来たんだよ。
師匠:まあ、お上がりなさいな。まだ30分あるから
私はその間にちょっと晩ご飯をいただいちゃいますから。

辰つぁん:師匠、いつものように自分でお茶入れてご馳走になってるよ。
師匠:茶箪笥をあけると甘納豆が入ってますから、それでもどうぞ。
八つぁん:師匠!稽古に来たよ。
辰つぁん:なんだ、おめえ。俺が稽古だよ。
八つぁん:はあ、おめえは7時だろ。俺の方は7時半だ。いま何時だい?
師匠:まだ6時半ですよ。一時間も早いじゃありませんか。
八つぁん:まだそんな早いのかい。弱っちまったな。
師匠:八つぁんはそそっかしいわね。まあ上がって、お茶でも飲んで…
八つぁん:じゃあ、待たせてもらおうかな。
辰つぁん:八!おめえ、師匠の顔を見たくて、早く来ただろ。
八つぁん:まあ、そんなところだ。おめえだって、そうなんだろ。
辰つぁん:まあ、そうだけどよ。…。
熊さん:師匠!稽古に来たよ。
師匠:あら、やだ。熊さん、あなたは8時の約束じゃないの?
熊さん:いまは何時だい?
八つぁん:熊、バカやろう!いまはまだ6時半だ。
熊さん:あら~そうかい。じゃあ、待たせてもらおうかね。
辰つぁん:まあ、いいじゃねえか。おめえもこっちに来な。
半ちゃん:師匠!稽古に来たよ。
師匠:半ちゃん、あなた9時の約束でしょ。まだ6時半よ。
半ちゃん:あれ~そう。…。そんなことはわかってるんだけどね。
師匠:本当にあなたたち、なんでそう、そそっかしいのかね。
ちゃんと時間を見て、来て下さいな。うちは髪結床じゃないんですよ。
甚兵衛さん:こんばんは。師匠!稽古に来ました。
師匠:あらっ甚兵衛さん、あなたは明日でしょ。
甚兵衛さん:今日は何曜日でしたかな?一日早かった…
師匠:本当に困ってしまう。まあ上がって、お茶でも飲んでいきなさいな。
甚兵衛さん:師匠、これ、うちのおっかぁが、持っていきなって。
師匠:どうもいつもすみませんね。何ですか?
甚兵衛さん:いやいや…つまんないもの。いつもの甘納豆。
辰つぁん:何?いつも師匠んとこでご馳走になってる甘納豆って、
甚兵衛さんが持ってきてたのかい。

甚兵衛さん:まあ、そういうことですかな。つまんないもんで。
辰つぁん:いや、うめえけどよ。そういう先回りは困んだよな。
与太郎:師匠…こんばんは。お稽古に来たよ。
師匠:あら、与太さん、あなたは来週じゃなかったの?
与太郎:ええ?そうなのかい?そういわれるとそうかもしれないけど…
てえいってもね、あたいは曜日とか何日とか、よくわかんないんだよ…

辰つぁん:バカ!与太!おめえみてえなバカに稽古事なんかできんのか!
与太郎:辰つぁんねえ、そうはいうけど、ここにいるみんなと大して変わんない。
辰つぁん:うるせえ!おめえにいわれたかねえや。
与太郎:あたいは頭が悪いから、何度教わっても覚えが悪いけど…
師匠:あらそんなことないわよ。辰つぁんよりも与太さんの方が先に進んでるのよ…
辰つぁん:えっ?そんなんですか。
八つぁん:おめえは偉そうにしてるけど、まわりのことが見えてねえんだよ。
郵便:速達です。郵便です。
甚兵衛さん:はいはい。師匠、郵便ですよ。
半ちゃん:速達か。何なのかね。何か重要なことなのかい?
師匠:あら、うれしいわ。
辰つぁん:何なんですか?
師匠:大師匠から稽古所を開く免許状が届いたのよ。
熊さん:…。どういうこと?ここは稽古所じゃないの?
師匠:みなさん、そういうことで来月から稽古所を開かせてもらいますんで
どうぞ御贔屓によろしくお願いいたします。

辰つぁん:この長屋、粗忽者ばかりが揃ってるけれど
中でも師匠が一番そそっかしい。


ありがとうございました。

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2011年6月16日 (木)

小噺「車のほめ方」

え~、よく噺の方には愚かしいものが出てまいりますが、
バカで与太郎という…与太郎なるものが現れますと噺の幕開けで…


お父つぁん:おい、与太郎。大の大人が昼間からぶらぶらして…
やることもねえなら…おじさんのとこに使いに行ってきな。

与太郎:やることもないっていうけれど、なくもないんだぜ。
お父つぁん:何かお前、用事があったのか?
与太郎:口で息したり、鼻で息したり、忙しいや。
お父つぁん:お前は幸せだね。お父つぁんはうらやましいよ。
与太郎:へへ。そうかい。口を噤んでも鼻で息はできるんだぜ。
お父つぁん:あのな、おじさんのところに行ったら、車をほめてきな。
おじさんは車道楽だから、また新しい車を買ったそうだよ。

与太郎:何ていって、ほめるんだい?
お父つぁん:まあ、大そう格好のいいお車で、いつの日か私も
こんなに立派な車に乗れるよう、なりとうございます…とでもいっておきな。
そうすれば、おじさん、機嫌がよくなって、小遣いくれるぞ。

与太郎:小遣いくれるのか?いくらくれる?
お父つぁん:いいから、早く行ってきな。

与太郎:へへ、ごめんなさい。へへ。ごめんなさい。
おじさん:誰か外で謝ってるね。いたずらでもしたのか?
うちには来たばかりの新車が置いてあるんだよ。
傷でも付けられたらたまらない。何だい?

与太郎:へへ、ごめんなさい。
おじさん:なんだ、与太郎か。どうかしたのか?
与太郎:へへ、来たんだよ。
おじさん:何か謝ってただろ。
与太郎:ごめんなさいは挨拶だよ。
おじさん:それをいうなら、ごめんくださいだ。
与太郎:へへ、それ。
おじさん:それというのがあるか。
与太郎:おじさん、車をほめに来た。
おじさん:おお、そうかい。うれしいね。
新しいのが来たばかりだから乗せてやるぞ。

与太郎:おじさん、黙っててくれよ。今ほめるんだから。
おじさん:おお、じゃあ、お願いしようかな。
与太郎:大そう格好のいいお車で、いつの日か私も
こんなに立派な車に乗れるよう、なりとうございます…
とでもいっておきな。
おじさん:ははあ。お父つぁんにそういえっていわれたな?
与太郎:小遣いくれるか?
おじさん:帰りに持たせてやるよ。
与太郎:おじさん、この車はハイブリッドのプリウスかい?
おじさん:よく知ってるな。おじさんの車は外車だ。
与太郎:被害者?エコカー減税の対象外だな。
おじさん:アルファ・ロメオだよ。
与太郎:マルハでロデオ?
おじさん:イタリアの車だ。
与太郎:当たり屋?おじさん、車ぶつけて、修理代だまし取ろうとしてるな。
よっ、悪党!保険金詐欺。音羽屋!外車は修理代が高い。
おじさん:おじさんの商売は、知っての通り、水産加工品会社の社長だよ。
威勢のいい魚を解体して、スーパーに納めたり、加工して
食品を作ったりしてるんだ。若い頃はでかいマグロに馬乗りになって、
人前で解体ショーをやったりもしたもんだ。

与太郎:ああ、それでおじさんの車、マルハでロデオか。

失礼いたしました。

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2011年6月11日 (土)

小噺 「エコ生活」

おじさん:おい!与太郎はいるか?
与太郎:なんだ、おじさんか。小遣いくれるのか?
おじさん:バカやろう。何かというと小遣いくれだ。
少しはまともに生きてみろ。
自分で金を稼ごうってえ了見はお前にはねえのか?
こうやっておじさんがお前のことを心配して、
ときどき見に来てやってるてえのも少しは感謝をしろ!
世間でお前のことを何といってると思ってんだ。
おじさんは恥ずかしくて、ろくに町内も歩けやしない。

与太郎:人がいいのは甚兵衛さん。バカで与太郎と申します。
おじさん:自分でいってら。本当のバカだね。こいつは。
与太郎:おじさんは、そうやって、すぐにお小言だ。
あたいだって、世の中のためになるっていうことをやってるよ。
おじさん:バカやろう。お前が何の役に立つってえんだ!
与太郎:そうポンポンいわなくても…じゃあ、見ていくか?
おじさん:何だ、お前!扇風機を何台も並べて何やってるんだ。
与太郎:この間、テレビ見てたら、電子力発言っていうのがね、止まっててさ。
おじさん:バカやろう。それを言うなら原子力発電だ。
与太郎:ハハア。その発電ってえのがね。電気が足らないから…
風力発言というのを…ああ、風力発電というのをね。するんだって。
おじさん:そうだ、お前。風力発電とか太陽光発電とか…
自然の力で電気を作る発電をこれからは増やさないといけないんだ。
与太郎:だから…その風力発電というのは、羽がたくさんまわってたからさ、
長屋中の扇風機を借りてまわって、風力発電をしてるんだよ。偉いだろ。
おじさん:まあ、お前にしては、そういう考えが出てきたというのは上出来だ。
でもお前、扇風機が回ってるけど、コンセントに入れてるだろ。

与太郎:おじさん、当たり前だ。扇風機はコンセントに入れないとスイッチが入らない。
おじさん:だから、お前はバカだってえんだ。電気を使って、扇風機をまわしても
節電とか、発電とか、そういうのにならないだろ。おじさんは恥ずかしいよ。

与太郎:でもね、おじさん。あたい、電気代払ってないから、電気止められてるんだよ。
おじさん:じゃあ、お前、どうやって扇風機は回ってるんだ?
与太郎:だから、さっきからいってるだろ。扇風機の羽がまわって、
風力発電というので電気を発電して、扇風機が回ってるんだよ。
おじさん:お前のいうことはどうもよくわからねえ。
与太郎:エネルギーが循環するって、こういうのをエコ生活っていうんだよ。
おじさん:ああ、お前のはエコじゃねえ…発想がセコすぎる。

ありがとうございました。

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